会社が研修費用を取り戻せるとき、ダメなとき

手帳を広げメモをとる女性社員。

接遇マナーや電話応対、PCスキル・・・

今のこの時期、新卒・中途を問わず、新入社員に研修を実施する企業は多いことでしょう。

そのためか、このブログでも研修に関する記事(参考記事「休日の研修は出勤日としてカウントするか」)のアクセス数が、ここ最近伸びています(笑)

そこで今回は研修にまつわる、よくあるトピックを挙げたいと思います。

それは研修費用について。

 

「うちの会社でもっと頑張ってくれると思ったのに」

「期待していたから研修に行かせたのに」

「こんなにすぐに辞めるなんて・・・」

 

社員にさらなるスキルアップを期待して研修を受講させた。それはノウハウや技術を学んで、そのスキルを社内の仕事に活かしてほしいから。それなのに、研修終了後すぐに会社を辞めるなんて思いもしなかった。せっかくかけた費用をどうしてくれるんだ(どうせなら受講費用を返してほしい)!!

 

実際、これはよくご相談を受けるシチュエーションです。

みなさんの会社ではありませんか?

法律が定めるルール

研修テキストの重要箇所を赤ペンで線を引こうとしている。眼鏡をはずしてひと休憩。

冒頭のようなシチュエーション、研修にかかった費用の全額返還を社員へ求めることはできるのでしょうか。

法律面の問題をみていきましょう。

研修の終了直後に退職したため、研修にかかった費用を会社が社員から返してもらおうとする場合、労基法16条違反となるおそれがあるので注意が必要です。

 

労基法16条では「労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とされています。

会社が社員に対して「もしこの契約期間中に退職したら違約金(もしくは損害賠償額を予定)を支払ってもらいますよ」と強制すると、社員が会社を辞めたくなった場合に、経済的な足かせとなるからです。退職の自由を社員から奪ってはいけない、ということですね。

 

そのため、研修終了後の退職に対して違約金や損害賠償を求めることについても、同じことが言えるのです。

裁判例をみると、16条違反と判断されるかどうかは、「退職の自由が確保されているか」がポイントです。

具体的には、①研修の受講が社員の自由な意思にゆだねられているか、②研修は業務の一環か、③研修終了後の拘束期間、といった点で判断されることになります。

経済的な足止め策になるとNG

画面いっぱいにクローズアップされた電卓とボールペン。

社員のスキルアップの支援として研修を受講させても、それを社内で活かすことなく退職してしまうと、会社としては投資コストの損失といえます。

 

そこで、「社員を縛る就業規則」を採用する会社では、(研修費用の)返還義務の免除特約がついた金銭消費貸借契約を整えることもあるようです。

内容としては、社員の研修費用を会社が負担し、研修終了後に一定期間勤続すれば全額会社の負担とし、一定期間内に退職すれば社員から会社に返還してもらうというものです。

 

ただし形式を整えたからといって、判例のように(研修の内容が)業務との関連性が強い場合は、違法な損害賠償の予定と解釈されます。

あくまで社員の自由な意思を拘束し、継続して会社に勤務することを強要するものであるかどうかを、実質的に判断されることになります。

運用するには十分な注意が必要といえます。

結局のところ研修費用は取り戻せるのか

腕をくんで、首をかしげて考え込む女性社員。

以上をまとめると、研修の参加が義務的で、その内容も業務との関連性が高い場合、その研修費用は仕事のうえで必要なものであり、会社が負担すべき費用と解釈されます。もし、事前に研修費用の返還を約束させていたものの、研修終了後に退職に至ったとしても、社員の退職の自由を不当に拘束するものとして、その約束は無効になります。研修費用の取り戻しは難しいですね。

 

一方、研修への参加が自由であり、その内容も業務との関連性がない場合であれば、研修費用の負担は当事者間の合意によります。研修費用の金額が実費であるなど、合理的な金額であることが明確で、返済条件も無理のないものであれば、社員の退職の自由を制限しないので、有効となる可能性が高いでしょう。研修費用の取り戻しができるかもしれません。

けれど「可能性が高い」と含みのある言い方になるのは、やはり一般的に、研修を受講しないことに対して、「もしかすると昇進などに影響があるのでは…」との心理的なプレッシャーが働くと思われるからです。ですから「研修は事実上の強制参加」と解釈され、研修費用返還の合意の効力が否定されるリスクを考慮しておくべきだと思います。

研修後すぐに社員が辞める理由は

青鉛筆と赤鉛筆が並んでいる。それぞれの先端から吹き出しが出ている。コミュニケーションのイメージ。

なお、研修終了後にすぐ社員が辞めてしまう企業の特徴として、効率性を追求するあまり、人(社員)を単なる資源として扱う傾向があるように思います。「投資コストを回収できなければその資源には価値がない(研修を受けた分、会社に貢献できなければ存在価値がない)」というようなメッセージとして、社員に伝わっているのかもしれません。

社員にそのように捉えて欲しいのか、欲しくないのか?見極めた上で、会社と社員のコミュニケーション方法を考えることが大切です。

 

人は心を持って成長します。ですから単なる資源として扱われると、成長どころかやる気も起きません。個人の価値を認めてくれ、それを高める投資をしてくれる企業で働く意欲が高まります。その投資のひとつの方法に研修があります。

 

社員の成長に投資する考え方を持つことが、ひいては会社を伸ばすことにもつながっていくと思います。もちろん費用対効果を考えることは大切ですが、投資コストの回収を急ぎ過ぎずに、研修を含めて自社に合った「人を育てる仕組みづくり」を考えたいですね。

社労士事務所Extension 代表・社会保険労務士 高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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