「通勤電車での混雑を避けて、自分のパフォーマンスがあがるタイミングで社員が出勤できるようにしたい」
そこでフレックスタイム制を検討する人事担当者さん。これは、一定期間における総労働時間を労使協定で定めておき、社員がその範囲内で毎日の始業・終業時刻を選択して働くことのできる制度です。
社員が生活と仕事のバランスをうまくとり、効率よく働けるようにするのが目的なので導入の検討はよいことですが、皆勤手当や精勤手当といった、この制度になじまない手当が存在していたりするなど、制度と給料体系の理屈が一致していないケースもみられます。
「制度と理屈があわない」そのカギは、遅刻と早退の取扱い方です。
そこで今回は、フレックスタイム制導入の検討にあたって、気をつけるべき遅刻と早退の取扱い方について確認していきたいと思います。
フレックス制では遅刻や早退は起こりえない
冒頭でお伝えしたように、フレックスタイム制とは1か月以内の一定期間について総労働時間(所定労働時間)を定め、その期間中の各日において、社員が自由に自分の意思で始業・終業時刻を選択して勤務するものです。
一般的には、必ずその時間帯は勤務しなければならない時間帯(コアタイム)と、その時間帯であれば社員がいつ勤務してもいい時間帯(フレキシブルタイム)、標準となる1日の労働時間(年休を取得した際に支払われる賃金の算定の根拠となる労働時間)が決められています。
社員それぞれが毎日の労働時間の長さ、いつの時間帯に働くかを自由に決めて、一定期間における総労働時間の範囲内で、毎日の仕事内容やそのボリュームに応じて労働時間を調整する(日々の労働時間をカウントする)ことになります。
つまり、遅刻や早退というのは起こりえないということです。そこで、フレックスタイム制の対象となる社員の給料体系に、遅刻や早退といったできごとにまつわる手当(皆勤手当や精勤手当など)が存在しないか、自社の給料体系を振り返ってみることが大切です。
言い換えると、人材マネジメント上、皆勤手当や精勤手当といった形で遅刻や早退などがないよう時間を厳守して勤務する必要性があるなら、フレックスタイム制度を職場に導入するのは難しいでしょう。
コアタイムの遅刻や早退を取り締まるのはOK
以上のように、フレックスタイム制は始業・終業時刻を社員の自主選択にまかせるものですから、遅く出勤することも、早く帰ることも原則として自由です。
ですが、出勤日であるにもかかわらず出勤してもしなくてもよい、という出勤日の選択の自由まで社員に与えられているわけではありません。
出勤日にはちゃんと出社する義務がありますし、労働時間中は職務に専念し、忠実に働かなければならない義務があります。
よって、出勤しなければならない所定労働日に欠勤することは、フレックスタイム制であっても社員の義務違反となります。
なお、コアタイムを設けた場合には、これを正当な理由なく守らなかった社員について、「コアタイムの遅刻、早退、欠勤」制度を設けることは差し支えありません。繰り返しになりますが、コアタイムは社員にとって必ず勤務しなければならない時間だからです。
そこで、「コアタイムの遅刻、早退が2回に及んだときは、1日分の欠勤として減給制裁の扱いとする(賃金カットする)」旨を、就業規則に規定することもできます。また、コアタイムの遅刻、早退、欠勤を、昇給・賞与・昇格などにかかる人事評価の査定対象とすることも問題ありません。
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フレックスタイム制など、柔軟な働き方を導入する最大の目的は、単に労働時間を短くすることではありません。社員が仕事に集中して向かうことができるよう、「無駄に労働時間を長くしない」ことにあります。
つまり、仕事を邪魔するもの(冒頭の例でいうと通勤電車の混雑など)をなくしていくということです。制度の導入といったハード面だけでなく、無駄な会議や打ち合わせを減らす、メールのやりとりを効率的にするなど、ソフト面ではすぐにでも取り組めるものがありそうです。
ハード・ソフトの両面で、社員が仕事に集中できる働きやすい環境を考えていきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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