仕事に必要な資格の取得費用を合格者のみ負担したい

ページがめくられたリングノート。サインペン。メモ帳。無造作に置かれた菜の花。試験勉強。

うちでは業務上必要な資格があり、入社後に取得してもらっている。資格取得にかかる費用は会社負担にしてきたが、近年はストレート合格の率が低下している(何回受けても本人の懐は痛まないから?)。費用負担を合格者のみにすれば、熱心に取り組むかな?

 

**

業務上必要なため取得を義務付けている資格試験、なんとかして一発合格を目指して頑張ってもらいたい上司です。

 

ハッパをかけるため、試験の合格者にだけ資格取得にかかった費用を後から支払うことにしてはどうか?との案が浮かびます。とはいえ、仕事に必要な資格取得なだけに、法的に問題はないのか気にかかります。

 

そこで今回は、仕事に必要な資格の合格者のみ、その費用を会社持ちにしていいのか、詳しく確認していきたいと思います。

業務命令としての資格取得

合格祈願の手作りのお守りが結びつけられた鉛筆。

そもそも会社は、社員に業務上必要な資格の取得を業務命令として命じることができるのでしょうか。会社の業務命令権限について判例では、下記の旨が示されています。

  • 会社が社員に対し労働契約に基づき命じることができる業務命令の内容は、労働契約上明記された本来的業務ばかりでなく、社員の労務の提供が円滑かつ効率的に行われるために必要な付随業務をも含むことは言うまでもない
  • だが、業務命令であっても、会社はこれを無制限に社員に命じることができるものではなく、社員の人格、権利を不当に侵害することのない合理的と認められる範囲のものでなければならない

また、職業能力開発促進法においては、社員が自らキャリア開発の設計・目標設定、そのための能力開発を行うことの支援を(努力)義務として会社に課しています。

 

よって会社は社員に対し、仕事に関連する必要な資格取得やそのための教育を受けることを業務命令として命じることができます

 

なお、試験に必要な学科や実技について、合格率を高めるため社内で開く講習会や勉強会に絶対参加を命じる場合、この試験勉強の時間は労働時間にカウントされます。これは、明らかに業務命令に基づくものだからです。受験の命令とともに社内講習会への参加も会社から黙示的に命じられていると判断されるときは、この試験勉強の時間も労働時間としてカウントされます。ただし、たとえ会社のほうから受験を勧めたとしても、次の1.かつ2.のような場合は労働時間にカウントされません。

  1. 実際に受験するかどうかは社員の自由意思に委ねられている
  2. 受験希望者に対する講習会も自由参加。不参加者に対して会社が何らかの不利益な取り扱いをすることはない

資格取得の費用を合格者のみ負担とできるか

紅白の水引の金一封。お祝い。

講習会の参加や資格取得が社員の自主性に委ねられているのであれば、その費用を合格者のみ会社が負担することも、社員の負担とすることも許されます。ですが、会社の業務内容に深く関連し、必要な知識や技能の習得のために業務命令として参加を命じた講習会の参加や資格取得にかかる費用は、会社が負担すべきものといえます。

 

では、業務命令として参加を命じた講習会の参加や資格取得にかかる費用を合格者のみ会社が負担する、という運用はできるのでしょうか。

 

「業務命令の内容は資格を取得すること。不合格ならそれを達成できていないのだから、資格取得にかかる費用は本人負担でいいのでは?」という見方もあるかもしれません。

 

ですが業務命令の内容は、講習会や資格試験を受けることまでで、合格という結果までは含まれないと解釈するのが道理にかなっています。

 

また、労基法16条では「労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」としています。仮に資格試験の不合格が労働契約の不履行にあたるとしても、合格者のみ資格取得にかかる費用を負担し、不合格者は自己負担とすることは、労働契約の不履行について賠償を求めているともみられ、同条に違反する可能性があります

 

さらに「試験に合格した者にだけ資格取得にかかった費用を後から支払う」という運用は、精算されるまでの間(本人が費用を立て替えている期間)は、実質的に賃金の一部が支払われていないとみることもできるため、賃金全額払いの原則に違反する可能性もあります

 

**

「じゃあ、資格試験のストレート合格率を上げるにはどうすれば・・・」

こんなとき、人事評価や給与体系のあり方を検討することはひとつの方法といえます。

 

【例】

  • 人事評価→業務に必要な資格が取得できていない(有資格者とは従事する職務に差が出ると考えられる)ことをマイナス評価とする
  • 給与体系→資格試験に合格することで「資格手当」を月給で支給する(有資格者にインセンティブを与える)
ラッピングペーパーに包まれた菜の花。

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

≫詳しいプロフィールはこちらから

伸びる会社の就業規則作成コンサルティング。テーブルに置かれた赤色のバラの花瓶と目覚まし時計。
社員を伸ばす人事制度構築コンサルティング。5人のスーツ姿の男女が談笑している。

無料コンテンツ。ページがめくられた本。ガラスの小瓶に飾られた四つ葉のクローバー。
社会保険労務士高島あゆみへのご依頼はこちらからどうぞ

【社労士事務所Extension】

社会保険労務士 高島 あゆみ

〒545-6031 大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス31階