
うちの関連会社のA社が倒産した。3年前にはうちから転籍した者もいる。その元社員から、A社が倒産したのでうちに復帰したい、との連絡があった。どうすればいいのか・・・
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転籍した元社員からの申し入れに、戸惑う人事担当者さんです。というのも、転籍とは、社員と従来の雇用関係のあった企業との労働関係が解消され(退職)、新たに他の企業に雇い入れられる(採用)ことだからです。
転籍先企業が倒産したということで、転籍した元社員を受け入れなければならないのでしょうか。
そこで今回は、転籍先企業の倒産による元社員の復帰問題について、詳しく確認していきたいと思います。
転籍先企業の倒産

転籍とは、社員と従来の雇用関係のあった企業との労働関係が解消され(退職)、新たに他の企業に雇い入れられる(採用)ことです。
元の会社の退職と新たな会社への就職が法的な関連性をもって同時に行われるものをいいますが、この「関連性」とは、転籍先企業との労働関係の成立(採用)と元の会社の労働関係の解消(退職)とが法的な条件関係にあるということです。
よって、元の企業での退職手続きが完了し、転籍先企業で正式に雇用されて転籍の効力が発生した後は、元の企業との雇用関係は終了します。その後、転籍先企業が倒産したとしても、転籍の効力には影響ありません。
ただし、転籍先企業が実体のないもので、法人格が形ばかりになっている場合には、「法人格否認の法理」(※法人格が形骸にすぎない場合や法人格が濫用されている場合に、紛争解決に必要な範囲で、法人とその背後の者(株主など)を一体としてみて、両者の分離を否定する法理のこと)に基づき、転籍先企業は元の会社と同一の企業とみなし、転籍した社員は元の企業と雇用関係にあるとみなされます。
実務的にどうなる?

転籍は、「退職・雇用」にまつわる労働契約の解消と新契約の締結という、本来は社員の自由にゆだねられている法律行為なので、企業内異動の転勤などの場合のように会社側が一方的に命じることはできません。
社員としての地位を失うものなので、出向の場合のようにあらかじめ就業規則で明白な定めをすること(根拠づけ)で、社員に出向命令に応じる義務が生じるという性質のものでもありません。あくまでも社員本人の明示または黙示の同意が必要です。
このような典型的な転籍とは異なり、転籍といわれるものにもいくつかのタイプがあります。たとえば下記のようなものです。
- 出向という名のもと、本人の個別的同意なしに事実上の転籍が行われている
- 本来は出向とすべきところ、様々な理由により形式的には元の会社を退職して転籍とするが、元の企業への復帰が予定されている
- 元の企業への復帰の約束まではしないが、元の企業が労働条件および雇用を保障している
繰り返しになりますが、典型的な転籍(元の企業を退職して完全に転籍先企業に雇用される)の場合、転籍先企業がのちに倒産しても復帰を受け入れる必要はありません。ですが、転籍とはいえ復帰が予定されている場合や、元の会社が転籍者の雇用を保障している場合には、転籍先企業の倒産により元の企業での受入れが必要だと考えられます。
転籍といってもいろいろなタイプがあるため、その実態に即して復帰が認められるかどうかを考えなければならないことに注意が必要です。
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転籍者の退職金や年次有給休暇については、たとえば次のような内容に関して、後になってトラブルに発展しがちです。
- 退職金を元の企業で支払ったうえで転籍させるのか
- 退職金原資を転籍先企業に移し、転籍先で退職金を支払うのか
- 年次有給休暇の付与にかかる勤続期間は(元の企業と転籍先で)通算するのか
これらについて、しっかり協定(元の会社、転籍先、社員の三者間協定が望ましい)しておくことが大切です。


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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