労働時間の把握のため社員のPCを無断でチェックしてもいいの?

オフィスのフリーテーブルに広げられたノートパソコン。傍らに手帳、ノート、眼鏡。テーブルに観葉植物の鉢植えが飾られている。

「勤務時間の自己申告制をとっている部署では、実際は記録よりも遅くまで働いているようだ。会社として正確な労働時間を把握するために、社員のパソコンの起動・終了時刻をチェックしたい。無断でやって問題ないのかな?」

 

労働時間の「自己申告制」は、社員に労働時間を自主的に記録させて、どれだけ働いたのかを自己管理させる方法です。

 

ただ労働時間が長くなる傾向があり、上司や人事担当者には、本人まかせにしないで労働時間をきちんと把握することが求められます。

 

そのため、抜き打ちのパソコンチェックを思いつくも「プライバシーの問題が発生するのでは?」と、みなさん不安に思われるようです

 

そこで今回は、労働時間の把握のため会社が社員のパソコンを無断でチェックしてもいいのか問題について、詳しく確認していきたいと思います。

社員のプライバシーをどう考える?

ノートパソコンのキーボードの上に置かれた三角コーンのおもちゃ。CAUTIONの文字。

職場での人材マネジメントや業務命令において、社員のプライバシーの保護義務や個人情報の保護義務があることには注意しなければなりません。ですが、職場における社員のプライバシーを考えるにあたって、重要なのは「プライバシーは侵害できるが、どこまで侵害できるか限度がある」という視点です。

 

社員のプライバシーは絶対に侵すことのできないものというわけではなく、企業と社員の関係性において、お互いの利益と調和される限度で保護されるものだということです。

 

一般的に、人格的生存に直接かかわる情報は強く保護されます。労働分野においても、人権問題に関する情報等の取扱いについては、行政の指導を遵守する必要があります。

 

行政のガイドライン等で労務分野において情報の取得自体が問題だと示されているのは、いわゆる人権情報やHIV情報・遺伝子情報・B型肝炎ウイルス情報等に限定されます。とはいえ、健康情報を会社(上司)が知らないと、適切な健康管理ができません。

そのため、むしろその他の健康情報については、会社の安全配慮義務にもとづき、一定の範囲で会社側が把握することが義務づけられています

労働時間の管理はどうなる?

オフィスのテーブルにノートパソコンを広げるジャケット姿の女性。胸からネームプレートを下げて。

労基法では、「会社は社員に休憩時間を除いて1週間について40時間を超えて働かせてはダメ」「会社は1週間の各日において1日につき8時間を超えて働かせてはダメ」ということが、規定されています。これに違反すると、会社に罰則が与えられます。

 

会社がこういった法律の規定に違反する行為をしないためには、常に労働時間を把握して、社員にいま何時間働かせているのか、法律上で許容されるタイムリミットまであと何時間なのかを知っておく必要があります。時間外労働手当を支払うにしても、社員の働いた時間をきちんと把握しておかなければできません。

 

また、会社には施設管理権があり、社員は建物や施設などを自分勝手に利用してはダメです。社員は、職場の建物や施設などの管理上の必要な規制やルールを守らなければなりません。つまり会社の施設管理権には、モノに対する管理権とヒト(社員)に対する管理権限も含まれることになります。

 

そのため会社が社員の施設への入退時刻を把握することに問題はなく、入退時刻についても「強く保護するべき人格的生存に直接かかわる情報」とはいえません。よって、労働時間の把握のため会社がパソコンの起動・終了時刻を把握することについて、社員のプライバシーを考慮する必要はないと考えられます。

 

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そもそも会社がパソコンの起動・終了時刻を把握するのは、自己申告の内容と実態が乖離していないかを確認するためでした(←これが本質的な問題なのであって、プライバシーについては副次的な問題)。

 

実際に働いた時間と自己申告がかけ離れているとしたら、労働時間の適性化を図っていくために個別に指導することが重要です(あとで大幅な時間外労働手当が発生することもありえます)。

 

社員の制度に対する理解不足を補い、業務効率やタイムマネジメント意識の向上に努めることがもっとも重要な課題だといえます。

無造作に置かれたピンクのチューリップたち。ラズベリーとブルーベリーのショートケーキのお皿。

社会保険労務士高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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伸びる会社の就業規則作成コンサルティング。花びんに活けられた真っ赤なバラ。白の置時計。
社員を伸ばす人事制度構築コンサルティング。談笑するビジネススーツ姿の男女。

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