社員が定期券を紛失するのが心配で1か月ごとに通勤代を支給してきたが、今は万が一なくしても再発行してもらえるIC定期券がある。同業のA社さんでは、マイカー通勤の社員の通勤代をガソリン価格の変動から定期的に見直しているらしい。うちも1か月定期代相当を支払ってきたところを、いちばん安い6か月定期代相当に見直そうか。
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通勤手当として定期券相当額を支給している場合は多いでしょうが、冒頭の例のように、コスト削減のため通勤手当を見直したいと考える会社もみられます。1か月定期の額と6か月定期の額では、後者の方が高い割引率だからです。
とはいえ、6か月定期券相当額への通勤手当の見直しは、社員にとって不利益変更とならないのかが気にかかる点ではないでしょうか。
そこで今回は、通勤手当の見直しで会社が気を付けないといけない点について詳しく確認していきたいと思います。
通勤手当は賃金なのか?
会社と自宅を往復するのに必要な費用は、法律上は「弁済の費用」にあたり、雇用契約上の債務者である社員が負担するものです。
ですから会社は通勤費を支給しない、とすることもできます。
ただし就業規則等で、金額や支給方法などの支給基準が決められている場合、通勤手当は「賃金」にあたります。
この場合、通勤手当の支給条件を変更するには、就業規則の不利益変更にあたるかを検討しなければなりません。
就業規則の不利益変更かどうかの検討ポイントは、前回の記事「家族手当の見直しで気をつけるべきこととは」にてお伝えした通りですが、冒頭のような「経費削減のため1か月定期代相当から6か月定期代相当へ見直す」といった場合、社会における一般的な状況が重視されます。
不利益変更にあたるかのチェックポイント
この場合、不利益変更にあたるか検討すべきポイントは2つあります。
- 賃金の「毎月払いの原則」との関係
- 6か月定期代相当への「支給額の引き下げ」問題
まず「毎月払いの原則」との関係から確認していきましょう。
賃金は法律上、毎月1回以上支払わなければなりません。本来であればこの原則に従って、1か月分の定期代を支払う必要があります。
とはいえ6か月定期代相当を年2回(半年ごと)、先払いとして社員に支給するのであれば、社員にとって有利な取り扱いになります。したがって不利益変更とはなりません。
次に「支給額の引き下げ」問題です。
経費削減のために、割高な1か月定期よりも6か月定期代相当へ改めたい、というのはもっともなことです。またそのような取り扱いをしている会社の割合は多いと考えられます。
世間一般の状況として、このような変更は必要性が高いと言えるので、就業規則を変更する合理性が認められるでしょう。
運用面で気をつけるべきこととは
法律上では不利益変更にあたらないとはいえ、運用するにあたって留意すべき点があります。たとえば、次の1)から3)のようなことがそれにあたります。
1)社員ごとの引き下がる額を把握しておく
1か月定期代と6か月定期代では、引き下げ額はおそらく大きなものではないでしょうが、社員ごとの不利益の程度を把握しておきましょう。そのうえで社員が納得できるよう、しっかり説明することが大切です。
2)6か月定期代の払い戻しが頻発しないか
もし中途退社や、部署移動などによる勤務場所の変更が多い会社の場合、6か月定期代の払い戻しが頻発することになります。手数料がかかりますし、事務作業にも手間取り、逆にコスト増となる場合もあるかもしれません。
3)コスト抑制には上限額も見直しておく
前述の通り、通勤手当は会社の業務費ではなく支給しない、との取扱いも可能です。ですから通勤にかかる実費の全額を支給しなくても構いません。コストを抑えるためには、通勤手当に上限を設けておくこともひとつの方法です。
コストを抑えたいのに、もし自社の就業規則に「非課税限度額を上限とする」とあれば注意が必要です。非課税限度額は徐々に引き上げられる傾向にあるので、コスト抑制策にはならないからです。
以上1)~3)のような点について、総合的に検討してみることをお勧めします。
また、いまは世の中的にテレワークや在宅勤務の導入が進みつつあります。長時間ぎゅうぎゅう詰めのラッシュの電車に乗って、毎日通勤する必要性があるのか?とも考えてみることも必要かもしれません。
たとえば、職場をあえて都市部に置かず、地方都市に置くことで社員に「職住近接」を勧める企業もあります。地方都市では生活にかかるコストが都市部に比べて少ないので、オフィスの近くに住むことも可能なので、ラッシュに揉まれる通勤から社員を解放することができるからです。
さまざまな視点から、いまの自社に適した「通勤のあり方」を考えてみてもいいかもしれませんね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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