家族手当の見直しで気をつけるべきこととは

カッティングボードのうえに5つ並んだカラフルなマカロン。コーヒーの入ったマグカップ。傍らに仕事の資料ペーパー。

社員の生活費の一部を補助するために、家族手当を支給している会社は多いと思います。家族手当の内容は「配偶者がいる社員に」「子どもがいる場合」など会社によって様々でしょう。

 

各社で共通するのは、「会社は社員の生活面に配慮して処遇を考えているので、安心して働いてほしい」とのメッセージを伝えようとしていることです。

 

ただ、最近では家族手当の支給要件を見直したいと考える企業も増えてきているようです。その背景には、家族構成の変化、共働き家庭が増えてきたこと、行政による児童手当の支給があること、国が(会社の支給する)配偶者手当の見直しを提言していること、などがあるかもしれません。

 

そこで今回は、家族手当の減額や廃止など見直しを行うときに会社が気をつけるべき点について、詳しく確認していきたいと思います

見直しの際の留意点

バラとユリの花束。ケーキの絵が描かれたバースデーカード。

家族手当も賃金にあたるので、就業規則でその具体的な金額や算定方法が決められていることが多いと思います。その場合、就業規則の内容が労働条件になるため、就業規則を変更することで家族手当の減額はじめ労働条件を変更できるかが問題です。

 

家族手当の減額は就業規則の不利益変更にあたり、社員の合意がない限り、原則は認められません。その就業規則の不利益変更に、合理的な理由がある場合は認められますが、極めて必要性が高く、納得できるものでなければなりません

 

たとえば冒頭にある「行政による児童手当の支給」は、会社と社員本人の雇用契約に関係がないので、たとえ社員の総収入が変わらないからといって「合理的な理由」としては認められにくいでしょう。

 

法律では、「①社員の受ける不利益の程度」、「②労働条件を変更する必要性」、「③変更後の就業規則の内容が相当なものであるか」、「④労働組合等との交渉の状況」、「⑤その他の就業規則の変更に係る事情」に照らして合理的なものであるときには、就業規則による労働条件の変更が認められるとされています。

もちろん、手続き的な要件として、変更後の就業規則を社員に周知させることが必要です。

 

この「合理的な理由」は厳しく判断されることが多いので、社員に納得して理解してもらえるよう、十分な説明が求められます(個別に社員から同意を得ておくことが望ましいでしょう)。

手当を支給する理由は?

朝の食卓に並んだトーストパンと目玉焼きのお皿。オレンジジュースのグラス。

基本給にプラスして手当を支給する場合、支給事由が明確である必要があります。そもそも手当は、「基本給にのせるにはそぐわない」趣旨によるものだからです。

 

たとえば、

  • 「遠方から通勤するのは大変だから通勤手当を支給する(でも家が遠いからといって基本給を上げるのは??)」
  • 「家族が大勢いると家計が大変だから家族手当を支給する(でも大家族だからといって基本給を上げるのは??)」

といった事情がわかりやすいと思います。

また、多くの会社が基本給をむやみに上げたくない理由は、2つ考えられます。

 

ひとつは基本給が「基本給の○か月分」など退職金や賞与の算定基礎となっている場合です。基本給を上げると連動して退職金や賞与も高額になってしまうので、できるだけ低く抑えて手当で調整したい意図があります。

 

もうひとつは、給料はいったん上げると下げることができないからです。将来的に支給事由がなくなると見込まれるもの(家族手当は最たる例)は、基本給ではなく手当で対応したい意図があります。

 

以上をまとめると、手当は給料として支給したいけれど、基本給にはのせられないため、あえて支払う「会社のこだわりやコンセプトによるもの」、といえるでしょう。支給事由が明確であってこそのものなので、これを説明できない手当は意味がないのかもしれません。

 

見直しを行う前に、まず自社の家族手当に対するこだわりやコンセプトは?」を考えてみることが大切です。

見直しのパターン

黄色の花を手に取り野原にたたずむデニムにスニーカーの女性。

家族手当の見直しにあたっては、前述の通り不利益変更に気をつけなければなりません。

ですから実務上は、 

  1. 家族手当を廃止、もしくは配偶者を対象からはずし、その分の原資を基本給に回す
  2. 配偶者の分を減額して子どもに手厚くする

などを検討することになります。

共働き家庭が増えてきたことから、実際のところは2)のパターンを検討したい、と伺うことが多いですね。

 

見直しによる経済的なインパクトをなるべく小さくするため、不利益を受ける社員には、段階的に支給額を減額していくなどの経過措置の配慮も必要です。

 

 たとえば「見直し前の額を半年は維持、その後は経過措置を長めにとって段階的に減額する」や、「見直し前との差額を賞与で補てんする」などが考えられます。

 

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 独身でいる、パートナーと籍はいれない、結婚しているがこどもはいない、こどもがたくさんいる・・・などなど、現在はさまざまな価値観があり、人生における優先順位、家族観なども人によってそれぞれです。

 

「こういう家族手当の支給方法にすれば、社員みんな平等だ」と、スッパリ割り切ってはいかないかもしれません。そのため、家族手当よりも基本給に原資を回したい、との結論を出された企業があります。一方で、家族手当がないと「冷たい」という印象を社員に与えかねないということで、支給水準を据え置いた企業もあります。

チョコレートマフィン、アーモンド、いちご、板チョコが並んでいる。

どちらのほうが「良い・悪い」「正しい・間違っている」というのは、ありません

できるだけ今いる社員の納得感を得るために、社員のニーズをヒアリングしながら、自社の方向性の検討を進めたいですね。

社労士事務所Extension 代表・社会保険労務士 高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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