メンタル不調で退職したい社員を会社は慰留するべき?

ノートの上に置かれた鉛筆。マスキングテープ。マカロンが添えられたコーヒーの入ったカップ&ソーサ。シャクヤクの花。

長年うちで働いてくれているAさんが、メンタルヘルス不調を理由に、突然辞めたいと言ってきた。直属の上司に確認すると、残業もそう多くはなく、特に負荷のかかる業務に就いているということもない。会社には安全配慮義務があるし、勤続年数が長い社員だし、慰留しなければならないのでは?

 

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メンタル不調を理由とした退職届を前に、会社としての対応に頭を悩ませる所属部長です。本人の退職の意思は固いようですが、安全配慮義務の観点から休職制度の利用などを勧めなければならないのでは?と考えています。

 

仕事によって社員の健康状態に変化があれば、適切な診断、治療を受けさせ、労働時間の短縮をはじめとする仕事の調整、適切な配置等を行う責任が会社にはあるからです。

そこで今回は、メンタル不調を理由とする退職届に会社はどう対応するべきか、詳しく確認していきたいと思います。

休職制度とは

ベッドリネンの上に置かれた白色の目覚まし時計。

休職とは、社員側の事情によって仕事に従事させることができない、または不適当な状況が発生した場合に、会社がその社員に対して労働契約関係そのものは維持させながら、一定期間の就労義務を免除することをいいます。

 

一般的に休職は「解雇猶予の制度」と解釈されています。正常な勤務ができない状態にあるなら、労働契約で約束した労務提供ができないということであり、社員の債務不履行になるからです。

 

つまり本来なら、普通解雇事由の「傷病により長期にわたり業務に耐えられないとき」に該当するところを、休職期間に療養して将来的に労務提供できる状態に治ゆすることを期待して、解雇を猶予するものです。

 

よって、退職の意思を持つ者を慰留して休職制度を適用する義務が会社にはある、ということではありません。また、社員にしても、休職制度について就業規則に明記され、その就業規則が社内で周知されているのであれば、「休職制度のことなんて知らなかった」ということにはできません。

企業の安全配慮義務とは

リングノートを両手で持つ。マニキュアが塗られた女性の指先。グリーンの葉。

会社が人を採用すると、特別な取り決めをしなくても労働契約に付随する義務として、安全衛生法や労基法を守って働かせるのはもちろんのこと、さらに「会社は安全衛生上の管理に努めて社員を働かせます」と約束したことになります

 

この関係について労働契約法では「労働者の安全への配慮」として「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(第5条)と定めています。

 

この安全配慮義務は、安全管理だけでなく健康管理についても同様です。会社は健康診断の結果に基づき医師の意見を勘案して、社員の健康を保持するため有所見者については「就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等(中略)の適切な措置を講じなければならない」(安衛法第66条の5)と定められています。

 

メンタルヘルスに関する問題については健康診断で明らかにならないことも多く、また本人にしても会社への申告をためらいがちです。だからといって、本人からメンタル不調について申告がないので会社は何にも対応しない、ということが許されるわけではありません。社員が過重労働にある場合やメンタル不調の傾向がみられる場合には、会社には速やかに業務軽減等の措置を取ることが求められます

 

冒頭の例では、長時間労働その他過大な負荷や、上司が本人の不調に気づきながらも何も対応しなかった、というような問題はみられないようです。退職について社内手続きを進めても、後になって会社の安全配慮義務が問われることはないと考えられます。

 

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突然の退職届(しかも勤続年数の長い社員からの)には、びっくりしてしまい対応が後手に回ってしまいがちです。

 

まずはその理由を確認し、退職の意思が確固たるものなのかどうか、十分なコミュニケーションとることが大切なのは言うまでもありません。

ハーブティーが注がれた水色のカップ&ソーサ。カモミールの花が添えられている。

社会保険労務士高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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伸びる会社の就業規則作成コンサルティング。テーブルに置かれた赤色のバラの花瓶と目覚まし時計。
社員を伸ばす人事制度構築コンサルティング。5人のスーツ姿の男女が談笑している。

無料コンテンツ。ページがめくられた本。ガラスの小瓶に飾られた四つ葉のクローバー。
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