
当社と関連会社との共同プロジェクトが立ち上がり、とある専門知識を持つAさんに出向してもらうことになった。ところが、Aさんの上司から「Aさんにまるまる抜けられるのは困る、週2日はうちにいてもらいたい」との要望が。兼務となる出向契約ってできるのかな?
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共同プロジェクトに従事させるため、専門知識を有する社員を出向させることになりましたが、「出向社員には週3日は出向先、週2日は出向元で働いてほしい」との社内の要望に戸惑う人事担当者さんです。兼務となる出向契約を締結する前例はなかったからです。
そこで今回は、週2日だけ出向元で勤務するような出向契約はできるのか、詳しく確認していきたいと思います。
兼務出向における社員と出向元・出向先との関係

出向(在籍出向)とは、出向元企業で働く雇用関係のある社員を、出向元に在籍のまま出向先企業において、出向先の指揮命令に従って出向先の仕事をさせることをいいます。つまり、出向元と出向先の両方で二重の労働関係が成立します。
そのため、出向元・出向先・出向社員での三者間の取り決めによる権限と責任に応じて、出向元・出向先のそれぞれが使用者としての責任を負います。
このように、出向元と出向先の両方で雇用契約関係があるため、出向先だけでなく出向元で勤務するという兼務出向も可能となります。
この場合、労働災害については出向先・出向元のどちらで業務遂行していたのか、どちらの業務に起因する災害であったのか、といった事実関係に基づいて適用関係が判断されることになります(労災保険は事業場単位で成立するため)。
兼務出向における36協定については、出向先での勤務については出向先の36協定が、出向元での勤務については出向元のものが適用されます。労基法では「同一企業の異なる職場で働く場合だけでなく、異なる企業の職場で働く場合も労働時間は通算する」との旨が定められているので、他社での勤務も通算して、自社の36協定を超えていないか、留意する必要があります。
また、安全配慮義務の観点から、兼務出向によって過重労働とならないよう、出向元・出向先の両方とも出向社員の勤務状態や健康状態に配慮しなければなりません。
実務的にどうなる?

出向命令は、就業規則に社員の出向命令に応じる義務が規定されており、これを提示することで包括的同意を得たとされます。ですが、これはグループ企業やあらかじめ想定できる出向先の場合に限られます。
兼務出向はイレギュラーな出向形態であり、対象となる社員に負荷がかかることから、あらかじめ想定できる範囲でなければ、就業規則に「出向を命じることがある」という規定があるだけでは、包括的同意を得たとは言い難いと考えられます。
兼務出向という形態が出向規定に明記されていれば、事前の包括的同意ありということで、出向命令ができます。ですが、規定において兼務出向が想定されていない場合は、事前の包括的同意ありとはならず、社員に個別の同意をとる必要があるでしょう。
なお、兼務出向の場合に限りませんが、出向期間中の処遇で重要な事項(賃金の支払関係、社会保険・労働保険の扱い、就業規則の適用など)については、出向元企業と出向先企業と間の出向契約で定めておき、その内容を出向社員に示すことが望まれます。兼務出向においては、出向社員の不安解消のため、特に詳細を十分に説明することが大切です。
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出向(在籍出向)は、出向元・出向先の両方に雇用関係が生じます。その点で、派遣元だけに雇用関係が生じる「労働者派遣」と区別されています。
業として行われる在籍出向(営利事業としての出向)は、職安法や派遣法で禁止されている、脱法的な労働者供給や派遣契約の形態となりますので、兼務出向においても注意が必要です。


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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