
購買部の何人かは、いつも遅くまで残業している。ここ半年で残業が80時間を超える月もあったようだ。ノー残業を呼びかけるポスターを社内に貼ったり、注意喚起メールを人事部から送ったりしているのに・・・ここまでやっているのだから、残業は現場の問題だよね?
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慢性的な長時間労働に日頃から注意喚起してきたにも関わらず、改善の様子がみられません。もう打つ手がないような気がして、やりきれない思いの人事部員さんです。人事部員として、会社が法的責任を問われるのかと考えを巡らせます。
そこで今回は、慢性的な長時間労働に対して会社が法的責任を問われるのか、詳しく確認していきたいと思います。
長時間労働に対する会社の法的責任

脳・心臓疾患の労災認定基準では、脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる動脈硬化、動脈瘤などの血管病変等が、主に加齢、生活習慣、生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等の個人に内在する要因により形成され、それが徐々に進行・増悪して、あるとき突然に発症するものであるとしたうえで、仕事が特に過重であったために血管病変等が著しく増悪し、その結果、脳・心臓疾患が発症することがあるとしています。
そして、恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがあると指摘しています。
判例においても、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して、社員の心身の健康を損なうことがないよう、社員の健康状態や勤務実態を把握し、それに応じて業務の軽減など具体的な措置をとる義務が会社にある、と示されています。
実務的にどうする?

前段でお伝えしたように、会社としては安全配慮義務の観点から、社員が長時間労働にならないよう注意を払う必要があります。
また、会社には社員の「労働時間の状況」を把握することが義務付けられています(労安衛66条の8の3)。ここでいう「労働時間の状況」とは労基法上の労働時間と同義ではなく、社員の健康管理という観点から把握されるもので、労務を提供し得る状態にあった時間をいいます。
この観点からも、社員が長時間労働になっていないか、会社は適切に把握する必要があるということです。
冒頭の例では、日頃から社内ポスターの掲示や人事部からの注意喚起メールによって、社員に長時間労働を行わないよう指導していたとのことですが、労働時間の状況の把握だけでなく、長時間労働の実態がある社員に対しては、注意喚起にとどまらず、社員の健康確保のため適切なマネジメントを行う必要があります。
労働時間の把握を怠っていたり、長時間労働の実態を知りながらも放置し、「あまり残業してはダメですよ~」との単なる声掛けをしたにすぎず、業務を軽減する具体的な改善策を講じなかった場合には、会社が講ずべき措置を怠ったということで、安全配慮義務を問われることになると考えられます。
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「会社は労働時間を把握しなければならない(把握義務がある)」というと、何か重苦しく感じられるかもしれません。
ですが、社員が効率よく仕事しているかどうかを確認することは、会社の義務というより「権利」ともいえます。社員の効率的な時間の使い方を確認することで、社員のパフォーマンスを上げることができるからです(その結果、会社の業績がアップする)。
「会社の義務」をネガティブにとらえることもできますが、ポジティブな面にフォーカスしていきたいですね。


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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