
採用内定者の親御さんから、本人が交通事故を起こしたとの一報が入った。事故の様子や程度はまだ明らかではないが、もし本人の不注意による大きな事故だった場合は内定を取り消すべきか、いや取り消せるのか?小さな事故なら、処分は反省文の提出でいいか・・・
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採用内定者による交通事故を知り、その後の対応に考えを巡らせる人事担当者さんです。
採用内定者には「採用予定者」と「採用決定者」の2パターンがあり、会社が採用内定の取消しを行って問題がないかは、これらを分けて考えなければなりません。
また、事故がそれほど大きくなく本人も反省している場合、会社が本人に反省文を求めることはできるのでしょうか。
そこで今回は、採用内定者の交通事故に会社はどうするか問題について、詳しく確認していきたいと思います。
採用内定者とはどんな人?

一般的に採用内定者とは、採用選考によって企業が採用を予定、または決定したもののまだ在学中のため入社に至っていない人の総称をいいます。
この採用内定者は、法律的には「採用予定者」と「採用決定者」の2つに区分されます。
この両者は法律上の地位が大きく異なるため、採用内定者がいずれの立場であるか、注意しなければなりません。
【採用予定者】
- 単に「採用する予定です」「採用の内定です」ということだけを本人に手紙や電話、メール、口頭で通知している場合(通知の手段は問わない)。
- 労働契約が成立していないので、その会社の社員としての地位を得ていない人である。よってその取消は解雇にならない。
- もし内定取消しの理由が不当なものであれば、会社は民法上の不法行為としての損害賠償責任を負う可能性がある(金銭的な賠償で解決するケースが多い)。
【採用決定者】
- 内定の通知後、必要書類の提出や入社日の通知をはじめ正式な採用決定の手続きが行われている場合。
- 労働契約が成立しているので、その会社の社員としての地位を得た人である。ただし、卒業が条件となっていたり、入社日からという始期がついていれば、効力の発生はそれらが達成された時からとなる。よってその取消は民法上の解雇になる。
- 合理的で正当な理由がなければ、内定取消しは無効となる。
内定取消しと反省文の提出

前段でお伝えしたように、採用内定者が「採用予定者」であれば、内定取消しは可能です。ですが「採用決定者」であれば、下記のような正当な理由が必要となります。
- 条件付き労働契約の場合、条件が達成されなかったとき(「卒業したら採用する」としていたのに卒業できなかった、など)
- 採用内定の取消事由を約束している場合、その取消事由が発生したとき(健康状態に異常が発生した、など)
- その他の不適格事由が発生したとき(犯罪を犯して逮捕された、など)
採用決定者が交通事故を起こした場合、交通事故の程度により判断されることになります。本人に重大な過失があり、事故の結果が深刻であれば内定取消しはできますが、第三者に被害を与えていない軽微な事故であれば、内定取消しは認められません。
また反省文の提出について、採用内定者に任意に反省文の提出を求めることは特に問題ありませんが、反省文の提出を強制させることは問題となります。反省文の提出は、個人の思想の自由にかかわる問題であり、会社が謝罪や反省を強制することはできません。
任意の反省文の提出に内定者が応じない場合でも、命令によって提出を強要することはできないと考えられます。
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本文の補足です。
- 新規学卒者の内定取消しをする場合には、公共職業安定所長または学校長にあらかじめ通知することが必要です(職安法施行規則による)。
- 反省文の提出は義務ではないので、反省文を提出しないことを理由とした内定取消しは認められません。


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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