
Aさんが、懲戒処分で5日間の出勤停止になった。出勤停止期間は無給だから、給与計算をすると10%を超える減額になる。あれ?これって減給制裁の制限に抵触しないの?
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出勤停止期間に応じて控除する給与額を計算しているうちに、減給制裁の制限との関係についてギモンを覚えた給与担当者さんです。
減給は労基法で厳しく制約されていて、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とされているからです。
そこで今回は、出勤停止による無給処分と減給制裁の制限との関係について、詳しく確認していきたいと思います。
減給の制裁に対する制限とは

労基法は、就業規則で定める制裁(ペナルティー)のなかでも、減給の制裁を定めるときには、減給の額があまりに大きすぎて社員の生活を脅かすことのないように、減給の最高限度を定めています。
その限度とは、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」としています。「総額の10分の1」と「日額の半額」というのは、両方を満たさなければなりません。
「1賃金支払期における賃金の総額」とは、その賃金支払期に対して「現実に」支払われる賃金の総額をいいます。つまり、1賃金支払期に支払われるべき給与の額が遅刻や早退、欠勤等のためにノーワーク・ノーペイの原則に基づき通常よりも少額になったときは、その少額となった給与総額を基礎としてその10分の1を計算することになります。
なお、就業規則中に「懲戒処分を受けた場合には昇給させない」との旨の昇給の欠格条項を定めても、これは減給の制裁にはあたりません。
出勤停止は減給制裁の制限に抵触するか

出勤停止とは、一定期間、出勤を停止し給与を支払わない処分をいいます(一般的には14日以内で定められている場合が多い)。
では、無給となる出勤停止は労基法の定める減給の制裁にあたるのでしょうか。
この点について、通達では下記のような旨が示されています。
- 出勤停止期間中の賃金を受けられないことは、制裁としての出勤停止の当然の結果である。
- よって、通常の額以下の賃金を支給することを定める減給制裁に関する労基法91条の規定には関係がない。
また、裁判例でも「出勤停止は労務提供しつつその賃金を減額するものでないから、懲戒処分としてなされる場合でも労基法91条の適用はない」との旨を示しています。
まとめると、労基法91条の定める制約(減給制裁の制限)は、出勤停止処分には適用されません。
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ちなみに出勤停止と自宅待機は、別モノなので両者を区別する必要があります。
自宅待機は、懲戒処分としての出勤停止処分ではなく、あくまでも処分決定までの間に証拠隠滅や同じような行為の再発を防止するために、就業制限を命じるものです。
業務命令としての自宅待機は、100%賃金を支払う必要があることに注意が必要です。


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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