
来月1日は年休付与の基準日。Aさんが来月末日で退職する予定だけど、みんなと同じく基準日に新規の年休を付与しないといけないのかな?新規分を案分して付与するのはダメなの?
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年休付与の基準日を前に、社員のみんながこれまで取得した年休日数と残りの日数を確認している人事部員さんです。
作業中にふと、退職を来月末日に控えた社員にも、他の社員と同様に基準日に所定の年休日数を付与しなければならないのか、案分して付与するのではダメなのか、とのギモンが頭をよぎります。
そこで今回は、退職予定の社員にも基準日に新規分を付与しなければならないのか、詳しく確認していきたいと思います。
年次有給休暇の成立

入社後、最初に年次有給休暇の権利が発生するのは、入社日から6か月間継続して勤務した場合です。つまり、最初の年休の発生要件は、「6か月間継続勤務して全労働日の8割以上出勤したこと」になります(以降1年間継続勤務して全労働日の8割以上出勤すること)。
そして、付与された年休はどのような場合に成立するのかというと、通常は社員の年休取得の申出のみで成立します。会社は「事業の正常な運営を妨げる事由(※)」がない限り、その指定された日に休暇を与えなければなりません。
(※)会社が年休取得の申出を拒否できる事由は、業務に支障をきたすような場合でなければダメ(例:すでに年休で休んでいる者が多く代替勤務や補充が難しい場合、など)
社員が「〇月〇日に年休をとろう」と年休日を決めて会社に申し出ると、その日から指定した年休日の前日になるまでに会社から「(事業の正当な運営を妨げる事由が発生したので)業務上その日を年休日にするわけにはいかなくなったので、他の日に変更します」との旨の時季変更権の行使がない限り、社員はそのまま休むことができます。当日は、適法に年次有給休暇として成立することになります。
このように要件を満たした場合、たとえ退職が予定されていようとも、年休は当然に発生・成立するため、会社は基準日に所定の年休を付与しなければなりません。
年休の案分付与について

勤務期間に応じた年休を案分付与する方法に、入社後半年未満の社員に対する繰り上げ方式があります。
法定の要件通りに年休付与すると、たとえば中途入社の多い会社では、基準日が入社日によって異なるため管理が複雑になります。
そこで基準日を統一するため、「入社後6か月で10日発生」という年休の発生要件を会社の判断で緩やかにし、入社半年に満たない場合でも、基準日に年休を前渡しするという方法です。
これは、労基法の定める最低基準を上回るため問題のない措置とされています。
では、中途退職者について、退職日までの勤務期間に応じて案分付与できるのかというと、これについては認められていません。先にお伝えしたように、年休は継続勤務等の一定の要件を満たせば、権利として当然に発生するからです。退職を理由として年休の付与日数を減らすことはできないと考えられます。
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年休の前渡し(年休付与の繰り上げ方式)について補足です。
これについて「(中途入社の)入社月によって不公平が生じない?」との意見もあるかもしれません。確かにそういう見方もできます。中途採用が多いのであれば、法定の付与によるのが最も公平な方法です。
実務上どちらを採用するかは、「割り切り」と「年休管理の事務負担」とのバランスだといえるでしょう。


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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