人事評価でマイナス昇給、遡って給与を引いてもいいの?

ぺーじがめくられた白紙のノートの上に置かれたラベンダー。ピンク色のリボンでまとめられている。傍らに英文資料ペーパーとクラシカルなカギが置かれている。

昨年度の人事評価が、5月になって確定した。6月の給与で遡って4月までの新年度分の昇給差額を支払うことになっているが、問題は、人事評価の結果で降給になった社員の分だ。4、5月の降給分を6月の給与からまとめて引いても問題ないのかな?

 

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昇給差額の遡及払い時(6月の給与支払い時)に、マイナス昇給分(4月、5月の降給分)をまとめて給与から控除してよいのか悩む人事担当者さんです。

 

人事評価による適正な給与額(人事評価で下がった給与)を支払うべく、賃金の過払い調整のために行う相殺(調整的相殺)が認められるのかがポイントとなります。

 

そこで今回は、降給に伴う調整的相殺で実務上注意すべき点について、詳しく確認していきたいと思います。

調整的相殺が認められるとき

デスクに置かれた卓上カレンダーと電卓、懐中時計。傍らにグリーンの鉢植。

賃金は、原則として、その全額を社員に支払わなければなりません(労基法24条、全額払の原則)。賃金は社員の日常生活を支える源泉であり、確実に社員のもとに支払われなければ経済的不安がずっとつきまとうからです。

 

ただし、下記の場合は例外とされています。

  1. 法令に別段の定めがある場合(所得税の源泉徴収、社会保険料の控除など)
  2. 労使協定が締結されている場合(社宅の費用、社内預金など)

これらの場合にあたらなくても、賃金の過払い調整のために行う相殺(調整的相殺)は認められる余地があります。これは過払い賃金の清算のために、社員の同意なく会社が行う控除のことであり、清算控除される月については全額払いの原則が外れることになります。

 

調整的相殺について、判例では下記のような旨が示されています。

  • (調整的相殺が)その行使の時期、方法、金額等からみて社員の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、労基法(全額払の原則)の禁止するところではない
  • (調整的相殺は)過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされ、あらかじめ社員にそのことが予告され、その額が多額にならないなど、要は社員の経済生活の安定を脅かす恐れのない程度でなければならない

実務上どうする?

デスクに並べられた卓上カレンダーとおもちゃのレジカゴ。経済生活の安定。

実務上、降給の場合にも調整的相殺はやむを得ないものです。前段でお伝えした判例の趣旨を踏まえ、合理的に接着した時期に実施し、社員へ予告し、控除額が大きくなければ、総合的にみて有効と判断されるものと考えられます。

 

特に「社員の経済生活の安定を脅かす恐れのない程度でなければならない」というのがポイントであり、これについて減給制裁の限度が賃金総額の10分の1とされている(労基法91条)ことが参考となります

 

つまり実務的には、調整的相殺は降給が決定してからできるだけ早期に実施し、冒頭の例のように、6月に1回で行うなら降給幅と合わせて10分の1控除が限度となるものと考えられます。

 

これを超える場合、控除を数か月に分けて1か月の賃金低下を10分の1以内に抑えるべきでしょう。降給の場合、下がった賃金からさらに控除され、控除が終わった後も賃金額は従前よりも下がったままとなり、社員にとって影響が少なくないからです。

 

トラブルに発展しないためにも、降給があることを社員に事前に告知し、清算の方法を明らかにすることで、社員に心づもりをさせておくことが大切であり、慎重な対応が求められます。

 

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なお補足ですが、人事評価で降給となり、調整的相殺を実施するにあたって、過半数代表者との間で4、5月の降給分を6月分から控除する旨の労使協定を締結すれば、労基法24条(全額払の原則)の問題は生じません(とはいえ、1回での調整が多額になると公序に反して無効となるおそれがあるので要注意)。

 

もちろん、労使協定があるからといって、社員への説明など配慮が要らないということではありませんのでご留意ください。

ストローハットとスノーボールの花たち。

社会保険労務士高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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