
私傷病で休職中のAさんから、産前産後休業をとりたいとの申し出があった。すでに休んでいるわけだから、産前産後休業を取得するとダブらない?どうすればいいんだろう・・・
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休職中の社員から産前産後休業を取得したいとの意向を聞いて、困惑する人事担当者さんです。
すでに休職していて労働義務のない日に重複して産前産後休業を取れるのか、そしてそれを会社として認めないといけないのか、ギモンが頭に浮かびます。
そこで今回は、私傷病で休職中の社員から産前産後休業の申請があった場合、会社はそれを認める必要があるのか、詳しく確認していきたいと思います。
そもそも休職制度の趣旨とは

休職とは、社員側の事情によって仕事に従事させることができない、または不適当な状況が発生した場合に、会社がその社員に対して労働契約関係そのものは維持させながら、一定期間の就労義務を免除することをいいます。
休職について定めた労働法上の規制はなく、休職の取扱いについてはあくまで会社が独自に決めるものです(逆にいうと、休職は社員の当然の権利ではないといえます)。
一般的に休職は「解雇猶予の制度」と解釈されています。もし正常な勤務ができない状態にあるなら、労働契約で約束した労務提供ができないということであり、社員の債務不履行になるからです。
つまり本来なら、普通解雇事由の「傷病により長期にわたり業務に耐えられないとき」に該当するところを、休職期間に療養して将来的に労務提供できる状態に治ゆすることを期待して、解雇を猶予するものです。
社員は解雇を猶予される権利を受ける代わりに、療養に専念する義務があるといえますが、休職期間中の妊娠・出産について、社会通念上この療養専念義務に違反するとはいえないと考えられます。
休職と重複して産前産後休業を認める必要があるか

産前産後休業について会社は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性社員が休業を請求した場合には、その者を就業させてはならないし、産後8週間を経過しない者は就業させてはならないことになっています(労基法65条)。母性保護というのが法の定める趣旨です。
休職と産前産後休業では、その意義や目的は全く同じとはいえませんが、医学的・生理学的な観点では重なり合う部分があります。よって、休職中の社員から産前産後休業の請求があったとしても、会社は産前産後休業にかかる法の要請にすでに応えているものとして、原則として社員の請求に応じる必要はないと解釈されます。
ただし、休職期間満了日の付近や、満了日において産後8週間を経過しないため、産前産後休業の請求があった場合は、法の趣旨に照らし、産前産後休業を認めなければなりません。会社としては、休職期間が満了し産前産後休業が経過するまでは復職の可否を判断するべきではありません。
また、引き続いて育児休業に入った場合、育児休業したことを理由として解雇することは許されませんので、復職可否の判断についてより慎重な姿勢が会社に求められることになります。
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労基法等で定める妊娠・出産・育児についての勤務上の措置は、社員の個人的な事由に基づくものであり、また個人的なプライバシーにかかわるものなので、社員自身からの申出が必要とされています。
そこで会社としては、こういった社員の権利行使について就業規則に規定するとともに、実務上の取扱い(会社への申請は所定の書面による、など)についてきちんとルール化することが大切です。
(社員が会社に申出をしないで健康を害したとき、「上司は知っていたのに配慮してくれなかった」と、会社の安全配慮義務違反ということでトラブルになるケースもあります。)


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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