
感染症対策のため、ワクチン接種を推奨するポスターを作成して社内掲示板に貼ってはどうか、との案が会議であがった。ただ、ごくまれとは聞くけれど重いアレルギーなど、重症の副反応(副作用)が起きる人もいる。会社が社員にワクチン接種を推奨して問題ないのかな?
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会社がワクチン接種を推奨し、ワクチン接種を接種した社員に重症の副反応が起きた場合、会社がその社員に対する安全配慮義務に問われることはないのか、と考える人事担当者さんです。
社員の健康保持のためにやったことが裏目に出ては・・・と心配しています。
そこで今回は、ワクチン接種と会社の安全配慮義務について詳しく確認していきたいと思います。
会社はワクチン接種を命令できる?

ワクチン接種(予防接種)は、大きく「定期接種」と「任意接種」に分けられます。
定期の予防接種は、予防接種法に基づいて、市町村が実施主体となり行う予防接種で、「A類疾病」と「B類疾病」に分けられます。
A類疾病は、発病すると重症化したり、後遺症を残す病気の予防および集団予防に重点を置き、接種の努力義務が課せられているものです。B類疾病は、個人の発病または重症化の予防に重点を置き、対象者本人が接種を希望する場合に実施されるもので、努力義務は課せられていません。
任意の予防接種は、予防接種法に定められていない予防接種や定期接種の年齢枠からはずれて接種するものです。個人予防として自らの意思と責任で接種を行うものをいいます。
このように、ワクチン接種について、任意接種は法律の定めはなく、定期接種は予防接種法に基づいて自治体の責務とされており、会社が社員にワクチンを接種させる責務を法律上負うものではありません。
ワクチン接種は注射により身体に対する侵襲を伴うこと(そのため社員の自己決定に委ねられる)、そして予防接種法においてワクチン接種を会社の責務とはしていないことから、会社はワクチン接種を推奨するにとどめるべきであり、会社が接種命令を発することはできないと考えられます。
ワクチン接種と会社の安全配慮義務の関係

ワクチンの接種によって副反応(副作用)が起きることがありますが、その多くは発熱したり、注射した部分が腫れるといった、比較的軽く、短期間で治るものとされています。ごくまれに、重いアレルギーなど、重症の副反応が起きることがあるようです。
では、会社が社員にワクチン接種を推奨し、社員が任意でワクチン接種した後に副反応が起きた場合、会社は安全配慮義務違反に問われるのでしょうか。
この場合、社員が自らの意思と責任で接種を行ったものであって、会社がワクチン接種を推奨しなければ副反応の発生を防ぐことができた、という関連性はないと考えられます。つまり、会社がワクチン接種を推奨したことと、社員の副反応との間に相当因果関係(社会通念上、その行為からその結果が生じるといえる関係)はないといえます。
よって、会社が「ワクチン接種を推奨してはいけない(のに推奨した)」ということで安全配慮義務違反に問われる可能性は低いと考えられます。
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後段について補足です。
実務上、社員の健康保持とトラブル回避を考慮すると、これまでに薬や食品など何らかの物質で、アナフィラキシーなどを含む、重いアレルギー反応を起こしたことがあるという社員を会社が認識している場合、その社員にはワクチン接種の推奨を控えることもひとつの方法でしょう。
(※本来、過去にアレルギー反応やアナフィラキシーを起こしたことがある場合、ワクチン接種の際には、その本人がその旨を詳しく医師に伝えるべきなのは言うまでもありません。)


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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