
当社では、入社時に身元保証契約書を提出してもらっているが、新入社員が「身元保証人が見つからない」と言ってきた。親や親戚とは疎遠になっているそうだ。人生観や価値観が昔とは変わってきているから、こういったことは今後もありそう。どうすればいい?
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身元保証契約は、身元保証人と会社との契約(社員本人との契約ではない)であり、その目的は、簡単にいえば、社員が会社に損害を与えた場合にそれを賠償することにあります。
とはいえ、社員のライフスタイルが多様化しているため、身元保証契約書の取扱いに頭を悩ませる人事担当者さんです。会社として、身元保証についての考え方を見直すべきなのかと思案します。
そこで今回は、入社時に悩ましい身元保証契約書の取扱いについて、詳しく確認していきたいと思います。
身元保証契約とは

身元保証契約は、会社と(社員から身元保証を依頼された)身元保証人との間で、社員本人の行為によって会社が受ける損害の賠償を約束する契約をいいます。会社と身元保証人との間で行われるものであって、社員本人は契約関係の当事者になりません。
身元保証契約では、社員の故意または重大な過失によって損害を与えた場合には賠償する、という金銭的な賠償が求められるのが一般的です。
この金銭的な賠償について、たとえ「一切の損害の賠償」と契約で定めていても、法律による身元保証の性質上、原則として会社はそこまで責任を問うことはできません。
横領、窃盗といった犯罪行為にあたるような故意による損害の場合は別ですが、過失による損害については、全額の賠償のケースは少なく、7割から2割の範囲で賠償が命じられる裁判例が多いようです(運転業務上の相当な過失による交通事故等の場合)。
身元保証の契約期間は5年を超えることはできず、期間を定めていないときは3年に限り有効とされています。自動更新はできないので、期間の満了時に更新手続きをしなければならないことになっています(更新後も5年が限度)。
実務的にどうする?

身元保証の趣旨は、その社員の身元がはっきりしていること、会社人として適性があること、損害発生時に連帯して損害賠償をしてもらう存在があることの証明にあります。
とはいえ、身元保証人が見つからないといって、もし社員本人がなりすまして筆跡を変え署名をして、身元保証契約書を提出するということがあるとすれば意味がありません(当然効力を有するものではありません)。
また、前段でお伝えしたように、犯罪行為にあたるような故意による損害の場合は別として、金銭的な賠償について「一切の損害の賠償」と契約で定めていたとしても会社はそこまで責任を問うことはできません。
ただし、身元保証契約書を提出してもらうことによって、不正防止の心理的な効果があることは事実としてあります。
これらのことから、そもそも身元保証契約書を会社に提出してもらうことが本当に必要なのか?と改めて考えることが大切です。身元保証の契約期間である5年ごとに再提出をしてもらうという厳格な管理をしている企業もあります。一方で、管理職や経理担当者にだけ身元保証契約書を提出してもらうことにしている企業もみられます。
昨今は人によって人生観、価値観も様々であることから、自社にとって身元保証契約書の存在意義を考える機会も必要だといえるのではないでしょうか。
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入社してから決められた期日内に、正当な理由がないにもかかわらず、必要書類を会社に提出しないことは、手続きの遅延を招くなど会社に迷惑をかける不誠実な行為といえます。社員としての適格性を疑われる事態になりかねません。
とはいえ、社員にも何かしらの事情があるかもしれません。
新入社員とギクシャクしないよう柔らかい言い方で状況をヒアリングし、その場に応じて対応したいですね。


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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