たとえば、36協定の手続きをスッカリ忘れていて放置状態になっていたとしたら、労基署から指摘があるかもしれないのは当然のこと。ただ、そんな無協定の残業であっても、社員から体調不良を訴える声がなかったら、会社が安全配慮義務違反を問われることはないの?
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36協定の有効期限が迫っているため、手続きが遅れないよう取り組む人事部のBさんです。手続きをすすめながら、冒頭のようなギモンが浮かんできました。
安全配慮義務違反が認められるということは、安全配慮義務違反と病気やケガの発症・増悪との間に相当因果関係があると解釈されているからです。
そこで今回は、社員の心身の不調がない場合、会社は安全配慮義務違反に問われないのか、詳しく確認していきたいと思います。
安全配慮義務違反と損害賠償
安全配慮義務は、社員に肉体的または身体的な疾患等の健康被害があり、それに対して会社に損害賠償を請求する際に、法的根拠として用いられる概念です。
そのため一般的には、何らかの健康被害が発生していることを前提に検討されることになります。
とはいえ近年では、社員に心身の不調が発生していないにも関わらず、心身の不調をきたすような業務に従事させたということで、会社に対して安全配慮義務違反に基づいた、慰謝料相当額の損害賠償請求を認めたケースが出ています。裁判例では下記のような旨が示されています。
【36協定を締結せずに社員を時間外労働に従事させ、その労働状況について改善指導を行う等の措置を講じなかった事案】
- 安全配慮義務違反が認められる
- 社員に心身の不調をきたしたと認めるのに十分な医学的証拠は乏しいが、1年以上にわたって月当たり30時間~50時間以上の時間外労働に従事させていたことは、心身の不調をきたす可能性がありうる時間外労働に従事させたものである
- 慰謝料相当額の損害賠償請求(慰謝料額10万円)が認められる
実務的にどうする?
前段でお伝えした判例において、ポイントとなるのは下記の点です。
- 36協定を締結していないなかでの時間外労働
- 「無協定残業」である状況を放置していた
- 会社が労働時間を適切に管理するための措置を何にも講じていない
このような状況から、具体的に心身の不調が認められなかったとしても、安全配慮義務違反を認め、慰謝料としての損害賠償を認めたということです。
安全配慮義務は、社員にケガや病気の発症・増悪が認められた場面において、事後的にその義務違反の有無が判断される特徴がありますので、健康被害がない場合に安全配慮義務違反を問われることには疑問が残るかもしれません。
ですが、前述のような裁判例があることには注意を払うべきです。時間外・休日労働が違法労働とならないよう、36協定の締結を行い、労基署長へ届出を行うことは言うまでもなく、会社は社員の労働時間マネジメントをきちんと行わなければならないことがわかります。
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安全配慮義務は、「社員にケガや病気の発症・増悪が認められる→事後的に義務違反の有無が判断される」という特徴から、予防的にとらえることが難しく、わかりにくい面があります。
ですが、会社としては「何かあったときにはそのとき対処すればよい」といった受け身的な考え方を捨て、社員の健康や生命・身体の安全に対して配慮を尽くすことを重要な経営課題として考えなければならない時代が到来したといえます。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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