
上の方針で、今後のキャリアのため本社勤務のAさんが、関連会社に役員として出向することになったそうだ。初めてのことなので、人事部(会社)として気をつけることはなんだろう?
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中堅社員のキャリア形成やシニア社員の処遇などを目的として、その社員を子会社や関連会社に役員として出向させるケースがあります。
とはいえ、このような役員出向が人事部員として初めての経験なので、通常の業務命令として役員出向を取り扱ってよいのか、何か特別に会社としてやるべきことはないのか、戸惑う人事部員さんです。
そこで今回は、社員を役員として出向させるときに会社が気を付けるべきことについて、詳しく確認していきたいと思います。
役員出向とは

社員としての出向であれば、「出向を命じることがある」というような就業規則の規定(包括的同意といいます)によって、出向元と出向先の両方で二重の労働関係が成立し、出向元企業の社員であると同時に、出向先の社員でもあるということになります。
ですが、役員として出向する場合には、出向先企業でその社員を役員に選任する商法上の行為が必要です。
取締役は、出向先企業の株主総会で選任される必要がありますし、選任された者による取締役就任の承諾の意思表示が必要となります。
出向先企業と取締役の関係は委任関係となるので、取締役は出向先企業に対して、善良な管理者としての注意義務と忠実義務を負うことになります。これらの義務に違反した場合には、取締役は出向先企業や第三者に対する責任を問われます。
このように取締役には高度な注意力と判断力が求められるため、役員出向は社員として出向する場合よりも重責を負うことになります。
会社が気を付けるべきことは

就業規則に定められた出向義務の中に、役員出向(出向先の役員に就任する義務)についても含まれているかが問題となります。
もし、社員が役員出向の可能性を認識していたとすれば、その社員に役員出向の義務を認めても不当とは言えません。
業務命令として役員出向させることができるので、正当な理由のない社員の出向拒否に対して懲戒処分を行うことができます。
現実には、役員出向の可能性について認識していたケースが多いかもしれません。ですが、社員が役員出向について認識していない場合に、役員になる意思がないのにも関わらず、役員就任を強制することになるのは行き過ぎだと考えられます。
このときには、その社員から役員出向について個別的同意を得なければ役員出向を命じることはできません。
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出向は、社員にとって有効なキャリアパスのひとつとして捉えられる時代になりました。
出向を経験すれば、転職せずとも新しい経験を積むことができるので、自分のキャリアアップやスキルアップの面で有効だと考えられているようです。
とはいえ、出向社員が心から納得できるよう(条件面など)、会社として丁寧な説明を重ねていくことが大切なのは言うまでもありません。


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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