
うちの就業規則では、出勤停止について「7営業日以内で懲戒事由によって日数を決める」ことになっている。その都度、出勤停止の日数を決めるのは時間や労力がかかってしまうから、一律の日数にしてはどうだろう。・・・問題あるのかな?
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就業規則の見直しにあたって、時間や工数のかかる社内の手続きも検討することにした人事担当者さん。懲戒規定の内容も見直しの対象にしようかと考えています。
とはいえ、懲戒(出勤停止もそのひとつ)は解雇と同様に労働条件に含まれるため、労働条件の変更にあたります。ここは慎重に検討したほうがいいよな・・・と、はやる気持ちを抑えるのでした。
そこで今回は、出勤停止を一律の日数にしていいのか、詳しく確認していきたいと思います。
労働条件の不利益変更との関係

労働条件とは、賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む、社員の職場における一切の待遇をいいます。
労働条件は労働契約によって定まるので、労働条件の変更には労働契約の変更が必要であり、これには会社と社員の間での合意が必要です。
例外として、会社側が就業規則を一方的に変更した場合であっても合理的であるときには、変更後の就業規則が社員に適用されることになります。
理屈としては、不利益であっても利益であっても、契約の変更には社員の同意が必要です。社員にとってメリット(利益)がある場合は、その同意が推認されたり黙示の同意が認められます(そもそもトラブルになりませんよね)。
社員にメリットとデメリット(不利益)の両方ともがある場合には、「不利益であるか」ということが問われるのではなく、「合理的であるか」ということが問われます。
冒頭の例でいうと、7営業日以内であった出勤停止期間をたとえば「一律5日」への変更を検討したとします。最長期間が5日になるのは社員にとって利益ですが、今まで1~4日までで済んでいた事案では不利益です。不利益な点がある以上、社員の同意を事実上推認することはできません。就業規則の不利益変更に関する合理性が求められることになります。
出勤停止を一律の日数にしていいのか

就業規則の中には、ある懲戒事由に対して特定の懲戒処分を定めているものもあります。たとえば「正当な理由なく14日以内の間で欠勤をしたとき、減給またはけん責とする」といった規定です。
ですが、これでは特別の(よくない)事情があったとしても、より重い懲戒処分に(出勤停止や懲戒解雇)することはできません。そのため、懲戒の種類や程度と懲戒事由とを別個の条文にして、個別対応でいかなる懲戒処分を選択できるようにした就業規則が多いです。
懲戒事由には事案の重いもの、軽いもの様々なものがあるので、懲戒処分の種類を限定せずにその事案に応じた懲戒処分を選択できることが適当だと考えられます。
そこで出勤停止期間を一律の日数にすると、かえって会社の懲戒権行使を拘束してしまうことになりかねません。裁量が大きいことで、事案に応じた懲戒処分を選択することができます。
そのほうが、「教育的指導として行う信賞必罰としての懲戒処分」という目的にも合っているのではないでしょうか。
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あらためて出勤停止とは、懲戒処分のひとつであり、その意義は出勤停止期間について賃金不支給とすることにあります。
そのため、出勤停止は減給の制裁よりも重い懲戒処分です。(減給の制裁は1回が平均賃金の半日分、総額が一賃金支払い期の賃金の10分の1を限度としている)
記事の本文で「たとえば出勤停止期間を一律5日」との例をあげていますが、実務上では重すぎる処分といえますので、念のためお伝えしておきます。
(減給の制裁と比較して、社員に与える経済的ダメージが格段に大きくなる)


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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