「転職先の会社の利益のために、うちの会社の機密情報が利用されるなんていることがあっては困る。うちとの競合企業への転職は就業規則で禁止することにしようか・・・」
キャリアアップのための転職を理解しながらも、会社の製品の製法や営業上の秘密を知っている社員が同業他社に転職することで、それらの情報が洩れたりしないだろうか・・・と心配な経営者や管理職。
そんなことになれば、これまでのみんなの開発努力が水の泡になってしまうからです。
そのため、競合する同業他社への転職を禁止することは会社として当然できるものと考えられがちですが、法律的には「合理的な範囲内なのかどうか」が問われることになります。
そこで今回は、退職後の同業他社への転職禁止が有効なのかについて、詳しく確認していきたいと思います。
ライバル企業への転職を禁止してもいいのか
会社の技術やデータ、顧客情報、営業ノウハウなど、いわゆる機密情報を知っている社員が同業他社(ライバル企業)に転職したり、退職して別会社を設立して同業をスタートさせることは、会社にとって痛手を受けることになります。
守秘義務や信義則上も問題があるため、こういった競業退職を禁止することは、「会社として当然のことだ」と考えられがちかもしれません。
退職後の競業行為を禁止すること自体はできますが、職業選択の自由や独占の禁止と調和する場合に限りにおいて有効とされています。
退職後の競業禁止が有効なためには、下記の限りにおいて有効とされています。
- 製造や営業等秘密の中枢に携わる者について、
- その秘密が保護に値する適法なものであって、
- かつ特約をもって競業禁止をする
さらに3.の特約の内容については、下記の内容等が要件となります。
- 制限期間(競業禁止の期間)を制限し、
- 対象地域(競業禁止の地域)について定め、
- 対象職種や業務を限定し、
- かかる制限の何らかの代償(たとえば研究手当や役付手当にその趣旨が含まれていればそれでもOK)が支給されていること
具体例で確認してみよう
退職後の競業避止義務について判例では、競業の制限が合理的範囲を超え、職業選択の自由を不当に拘束する場合には、公序良俗に反して無効としています。
合理的範囲内かどうかの判断は、制限の期間、場所的な範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無などについて、企業の利益と退職者の不利益を両てんびんにかけて検討することが多いとされています。
では、次から具体例を確認していきましょう。
【事例1(判例による):事業の性質上重要な顧客情報の利用について】
- 得意先を奪うといった競業の行為を、その行為の会社に対する影響がもっとも大きい退職直後の3年間に期間を限定し、特約によって禁止することは不合理ではない
- 退職者のいうような職業・営業の選択の自由や生存権を侵すものではなく、公正な取引を害するものではない
【事例2(判例による):会社が退職後の競業避止の負担の誓約を求めることについて】
- 誓約書に基づく合意は、退職者に対して「退職後は理由のいかんにかかわらず、2年間は在職時に担当したことのある営業地域(都道府県)並びにその隣接地域(都道府県)にある同業他社(支店、営業所含む)に就職して、あるいは同地域にて同業の事業を起こして、会社の顧客に対して営業活動を行ったり、代替したりしないこと」という競業避止義務を負担させるものである。
- それは退職後2年間という比較的短い期間で、また限定された区域におけるものである。
- 会社側は既存顧客の維持という利益がある一方、退職者側は従前の担当地域の顔なじみの顧客に営業活動を展開できないという不利益を被るが、禁じられているのは顧客収奪行為である。
- これらの事情を総合すると、本件誓約書の定める競業避止義務は、退職後の競業避止義務を定めるものとして合理的な範囲にとどまっていると認められる。公序良俗に反せず、無効とはいえない。
- 退職者は、会社に対して本件誓約書に基づく合意により、秘密保持義務と競業避止義務を負っている。
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「会社を辞めると、秘密保持義務や競業避止義務を負うなんて大変・・・(;´Д`)」と思う社員さんもなかにはいらっしゃるかもしれません。ですが、これらの義務は退職者だけの問題ではありません。
在職中の社員は、労働契約上の信義則に基づく秘密義務保持、競業避止義務を当然に負うものとされています。
誤解のないよう、就業規則の規定をもとに職場内で意識を共有しておきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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