先ほどAさんが担当の取引先から苦情の電話があった。本人は月末に退職するので今は残りの年休を消化中、退職日まで出社してこない。後任のBさんに聞いても引継ぎが曖昧だったようで対応できない。年休中のAさんを呼び出すのはコンプライアンス的にマズイのだろうか・・・
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トラブル対応のため、退職予定で年休消化中の社員に出社を求めたいものの、「退職日が近いのに年休を消化できないなんて権利侵害だ!」との反応だったら・・・と迷ってしまう上司。
確かに、退職予定日以降に年休を与えることはできませんし、退職日が迫っているのでは時季変更権の行使もできません。では、トラブル真っ只中の顧客対応はどうすれば・・・(;´Д`)
そこで今回は、退職予定で年休消化中の社員を出社させていいのか、詳しく確認していきたいと思います。
年休の時季変更権を使えない、どうする?
退職予定で年休消化中の社員に時季変更権を行使できないなら、どうすれば業務の引継ぎのため出社させることができるのでしょうか。
理論上は、退職日までの休日に休日労働命令を行って出社させることが考えられます。年休は、労働義務がある日に労働義務を免除する制度なので、もともと労働義務がない日(つまり休日)には、年休を取得することはできません。
退職日まで年休消化を行う場合でも、休日に年休をあてることはしないでしょうから、休日に出社させるという対応があり得るでしょう。
休日労働命令を有効に行うには、下記の要件を満たす必要があります。
- 36協定の締結・届出を行うこと
- 休日労働命令を行うことを労働条件として就業規則に定めること
- 休日労働命令の具体的な内容が権利濫用にあたらないこと
年休消化中の社員を休日に呼び出すことができるか
前段でお伝えした、休日労働命令を有効に行うための要件について、1.の36協定の締結&労基署への届出はみなさんご存じのことだと思いますが、2.については意外に思われたのではないでしょうか。
36協定はそれ自体で社員に義務を課すことができません(時間外労働等をさせても労基法違反にならないとする免罰的効力のみ)ので、時間外労働等を命じることは、労働条件として就業規則に定める必要があります。
そして特に気をつけるべきは、3.の「休日労働命令が権利濫用にあたらないこと」です。一般的に、業務上の必要性の有無やその程度、不当な目的がないか、社員の不利益の程度を総合的に考慮して判断することになります。
休日労働命令は、社員のプライベートに与える影響が大きいので、業務上の必要性については高度のものが求められることになります(休日労働がなければ納期に間に合わず会社に損失が出る、代替要員がいない、など)。
冒頭の例では、退職日まで年休消化中のAさんから苦情処理の引継ぎを受けなければ、誰も対応できる者がいなくて会社が損害を被る可能性がありましたから、休日労働命令を有効に行うための要件を具備していることを前提として、休日労働命令を行って会社へ呼び出すことはできるでしょう。
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このように理論的には、休日労働命令によって退職日まで年休消化中の社員を休日に呼び出す方法があります。
ただ実務上では、休日労働命令の可能性に触れながらも、「引継ぎがないままだと、(苦情のあった)取引先との関係性も危ぶまれるし、後任者にむやみな負担をかけることになるので、できる限りの誠意をもって対応してほしい」といった旨を本人に伝え、苦情処理や業務引継ぎを行うよう説得することが現実的ではないでしょうか。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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