景気後退で一部の部門で人員を削減し、事業を縮小せざるを得ない局面だ。だが、今いる社員には生活がある。まだ社会人になっていない採用内定者の内定取り消しをまず行うのはどうだろうか・・・
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既存社員の整理解雇を行うより、内定取り消しを行うほうが経済的なダメージは少なく、人員整理が比較的緩やかに進むのでは・・・と頭を悩ます経営幹部。
とはいえ、景気悪化時を乗り越えて会社の再建に向かうとき、将来を担う若手社員がいないのでは企業の経営は立ち行かなくなるおそれが考えられます。また、法律面で採用内定の取消しには慎重を期する必要があります。
そこで今回は、事業縮小や人員整理を理由とする採用内定の取消し問題について詳しく確認していきたいと思います。
そもそも採用内定の取消しとは?
「選考の結果、貴殿には正社員として入社していただきたい、これをもって正式な内定として通知します」などと、採用内定だけを通知していて(←手紙、電話、メール、口頭など手段を問わない)、なんら指示や条件がつけられていない場合であっても、会社と当人の間にはそれに基づく法律関係と信頼関係が生じています。
そのため、一方的にその関係を破棄し、解約するにはそれに応じた「相当な事由」がなければならないと考えられています(民法による)。
その後労働契約の成立段階に移行した場合(必要書類や入社誓約書の提出、入社日の通知、入社前教育の開始、内定式で正式採用を通知した場合など)も、卒業前の学生の場合には、始期付きの解約権を留保した労働契約(※)とされていて、一般社員を解雇する際の正当な理由とはその性質を異にします。
採用内定取消の正当な理由とは、次のようになります。
- 条件付き労働契約の場合の条件の成就または不成就(卒業したら採用する、卒業しなかったら採用しない など)
- 採用内定取消事由を約束している場合のその取消事由の発生(健康状態の問題発生、所定の資格の未取得 など)
- その他の不適格事由の発生(犯罪行為による逮捕、起訴 など)
(※)入社するまでの間に、採用内定通知書等に定めた採用内定取消事由が生じた場合や学校を卒業できなかった場合には、労働契約を解約できる旨の合意を含んだ労働契約
人員整理で採用内定を取り消してもいいの?
では、不況から企業規模を縮小せざるを得なくなったとき、人員整理等の雇用調整を理由とする採用内定の取消は認められるのでしょうか。
この場合、採用のときに企業縮小による内定取消しがまったく予見できず、予見しないことに過失がなかったという「事情変更の原則(※)」が適用される場合、またはそれに類するような事情のあるときでなければ採用内定取消の正当な理由にはならないでしょう。
もちろん本人の同意を得たうえで採用内定の解約をしたり(お見舞金のような金銭を支払う場合もある)、採用時期を延期したり、と円満な解決を図ることが望ましいといえます。
また、人員整理を行うにしても「まだ社会人じゃない(会社からの給与で生活していない)から」との理由で、採用内定者を整理対象の第1順位とするには問題があります。
若者の将来性や会社再建に必要なマンパワーを考えると、パート社員や定年後再雇用者の整理、希望退職の募集などの措置をとった後でなければ合理性がない、との考え方もあるからです。会社には慎重に雇用調整策を検討することが求められます。
(※)契約締結時には当事者が予想できなかった社会事情の変更が生じ、契約の内容をそのまま履行させることが当事者間の公平に反する結果となる場合、契約の内容を変更したり、契約を解除したりできる
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「内定取消の場合、30日前の予告(または予告手当)が必要ですか?」
これについて、採用後14日未満の試用期間中の者は解雇予告の適用除外とされているため、そのバランスから不要とする説もありますが、厚生労働省は必要であるとの見解をとっています。
慎重な対応が求められるので、ぜひ頭の片隅に置いていただければと思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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