「パートのAさんには時給1,050円で週3日(週18時間)、うちの店に来てもらっていいます。無期転換すると、この労働条件をグレードアップさせないといけませんか?」
パートさんが入社してからもうすぐ6年目に突入するので、無期転換について考え始めた店長さん。Aさんは働きぶりも優秀で条件面のグレードアップに異存はないものの、まずは法律ではどうなのかを把握しておきたい様子です。
無期転換したときの労働条件について、結論からお伝えすると、基本は今までと変わりません。労働契約の期間が有期から無期になる(期間の定めのない労働契約)だけです。
とはいえ、「別段の定め」をすることで、期間の定め以外の労働条件を変更することは可能です。
そこで今回は、無期転換時の労働条件はどうなるのか、「別段の定め」があるときとないときについて詳しく確認していきたいと思います。
「別段の定め」がないとき
無期転換時の労働条件は、それまでの有期労働契約の労働条件と同一であって、労働契約の期間が定めのないものとなるだけです。
5年を超えて有期労働契約をした場合には、無期転換を申し込む権利が発生します。
働き手がこの権利を行使してその有期労働契約期間中に会社に申し込むと、期間満了の翌日を就労開始日とする期間の定めのない労働契約に転換します。
ですが、その場合の労働条件は従前の労働条件のままです。たとえば先のパートのAさんを例にとってみましょう。
【パートのAさんの労働条件】
- 時給1,050円
- 週3日(週18時間)勤務
- 賞与、退職金なし
↓
【無期転換した後の労働条件】
- 上記と同一の労働条件(労働契約期間のみがなくなる)
「別段の定め」があるとき
前段でお伝えしたとおり、無期労働契約への転換は期間の定めのみを変更するものであり、それ以外の労働条件については従前と変わりません。
ですが、労契法第18条第1項の規定による「別段の定め」をすることで、期間の定め以外の労働条件を変更することができます。
ここでいう「別段の定め」とは、労働協約、就業規則及び個々の労働契約(無期労働契約への転換にあたり従前の有期労働契約から労働条件を変更することについての有期労働契約者と会社との間の個別の合意)をいいます。
つまり、就業規則に定めがあれば、無期転換後の労働条件を転換前のものから変更することができます。言い換えると、就業規則に基づく無期転換のルール化ができるともいえます。
転換後の労働条件に関する別段の定めは、より有利に変更する定めと、より不利に変更する定めの両方が想定できます。というのも、パート社員や契約社員といった有期契約の働き手のなかには、たとえば高度な専門性がある仕事に就いて正社員よりも良い労働条件で働く(いわゆる「有期プレミアム」)人もいるからです。
無期転換を申し込むかどうかはその本人の自由なので、不利益変更にみえても本人が「有期プレミアム」の恩恵を捨てて、無期転換を申し込むことは本人の承諾を得た合意と解釈され有効となります。
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「せっかく無期雇用になるのだったらもっとチカラを発揮してほしい」
会社としてこのように考えるのも心情的に理解できます。
そこで就業規則に「無期転換後は、勤務地や職務を限定せず、正社員並みの責任を負ってもらう」との旨を定めること自体は問題ありません。
とはいえ、実務上でそういった必要性がないにもかかわらず、無期転換の申し込みを抑制することが目的で規定を設けては、就業規則の作成・変更の合理性が認められない場合がありますので注意が必要です。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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