「始末書の提出が前提でけん責処分にしたのに、一向に始末書を出してくる気配がありません。反省の色が見えないので、さらに減給しようかと考えています。」
ここで問題となるのが、「一事不再理の原則」です。ひとつの違反行為に対して二重の処分をすることは許されません。
「それなら、そもそも“始末書を提出させてけん責処分にする”というのもダメなんですね?」
これは「併科」の問題であって、「一事不再理の原則」とは関係ありません。・・・「一事不再理の原則」のことを「二重処罰の禁止」ということがあるので、ややこしく誤解されがちかもしれません。
そこで今回は、始末書の提出拒否をもって、新たな懲戒処分を下すことがダメなわけについて詳しく確認していきたいと思います。
二重処罰の禁止の原則とは
一つの違反行為に対して、二重の処分をするということは許されず、これを二重処罰の禁止といいます。
つまり、一つの事案について、Aという懲戒処分がとられたのちに、その事実について再びBという別の処分をとるのはダメだということです(Aの処分とBの処分の間にタイムラグがある)。
「一事不再理の原則」ともいい、一度処罰が確定した事案について重ねて処罰することができないとする刑事訴訟法上の原則を指しますが、懲戒処分にも一事不再理の原則は当てはまるとされています。
なお、前に懲戒処分を受けながら、やった過ちを悔い改めることなく再び繰り返した場合には、前の処分を考慮し、重い懲戒処分にすることができます。
また、就業規則に「始末書を提出させて、減給する」というように、1つの違反行為に対して2つの処分を科することは、一つの行為に対する「併科処分」であるので、二重処罰には該当しません。
始末書の不提出でさらに重い処分にできるか
一事不再理の原則について問題になるのが、始末書の提出拒否によってさらに重い処分に付することができるのか、という件です。
これについて判例では、「始末書の不提出という事態をきっかけにさらに懲戒処分を行うのは、一つの行為について再度処分をすることにほかならないため、後の処分は無効」とされています。
懲戒処分としての始末書の提出は、あくまでも処分であって業務命令ではありません。
また社員は、会社から身分的、人格的支配を受けるものではないので、謝罪を強制する始末書は個人の意思尊重の理念に反するので強要はできず、社員の自由意思に委ねられています。
したがって、「始末書を提出させて、減給する」という処分は、懲戒処分の通告をもって完了していて、始末書の提出がないと処分が完了しないというわけではありません。
ただし、やったことの行為内容について報告を求める報告書(顛末書)としての始末書なのであれば、それが業務に関するものであれば、社員は会社に業務の遂行内容について報告する義務がありますから、話はまったく別です。
事案の内容を明らかにさせる目的で「報告書としての始末書」を求めるのであれば、それは業務命令となります。
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みんなが気持ちよく働けるよう会社の秩序を維持するためには、社員はどのような行動してはいけないのか、それぞれが認識しなくてはなりません。
どんなことをするとどんな懲戒処分を受けるのか、職場でしっかり理解を深めるようにしたいですね。(参考記事「職場をぎくしゃくさせない懲戒処分への対応」)
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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