「懲戒解雇をした場合、社内掲示板で対象者を公表することを検討しています。就業規則にも明記しようと思いますが、問題はありますか?」
懲戒処分の内容を公表することで、他の社員に対する警告にしようと考える企業さんです。事案を理解してもらい、今後の社員の指導・教育に努めたいとの意図があります。
とはいえ、公表することで、懲戒処分の対象社員から逆に名誉棄損で訴えられるリスクがあるのでは?との懸念も・・・
結論からお伝えすると、「懲戒解雇が有効」なのであれば社内公表することで特段の問題はありません。逆に言えば、「懲戒解雇が無効」であるような場合は違法となりますから注意が必要です。
そこで今回は、懲戒解雇について社内公表する場合の注意点について詳しく確認していきたいと思います。
懲戒解雇の公表はダメなのか
懲戒解雇を行った場合、その懲戒解雇が有効であれば、社内公表することについて特段の問題はありません。
それは、就業規則に「懲戒解雇は公表する」旨の規定が就業規則に定められていてもいなくても、基本的には同じと考えられます。
懲戒解雇を社内公表することは、「他の社員も同じことを行ってはならない」という指導・教育上の必要性があるものと認められるからです。
では、社外の取引先などに懲戒解雇について公表するのはどうでしょうか?
これについては、(懲戒解雇が有効であれば)取引先の関係者に社員でなくなったことを告知することで、取引上のトラブル防止を図る必要性があると考えられるので、その社員の再就職を妨害するなど「(その社員を)困らせたい」といった会社側の意図がない限り、違法性はないでしょう。
ただし、懲戒解雇が無効であるような場合は、社内で公表したり、対外的に公表することは違法となります。名誉棄損ということで、会社に損害賠償の義務があると判断されたケースもありますので、注意が必要です。
個人情報保護法に抵触しないのか
次に、社内の掲示板に懲戒解雇の事実を掲載することが、個人情報保護法に抵触しないかも気にかかるところではないでしょうか。
その点について、ポイントは下記の2点となります。
- 利用目的の範囲を超えるものか
- 第三者提供にあたるか
1について、社内掲示板へ掲載する目的は「懲戒解雇の事実を周知し、業務への支障や混乱を回避し、会社の秩序を維持するため」であり、個人情報取得時(対象社員への懲戒解雇時)における利用目的と同一、もしくはその達成のために必要な範囲内と考えられます。
2について、社内掲示板への掲載は、社員の個人データを社内で利用するものなので第三者提供にはあたりません。
なお、懲戒解雇をはじめとする懲戒処分の情報は、会社の秩序維持や人事管理のために使用されることが明らかなので、本人に利用目的を通知したり、公表する必要はありません。
(※個人情報保護法では、個人情報の利用目的を公表していない場合は、個人情報の取得後速やかに利用目的を本人に通知するか、公表することになっていますが、利用目的が明らかであれば必要ありません。)
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懲戒解雇の事実について社内の掲示板で公表することは、たとえその事実を知りうる範囲が社内に限られるにしても、対象社員の名誉や信用を著しく低下させるおそれがあるのは否めません。
そのため、懲戒処分の公表については、必要最小限の表現を用いて、対象社員の名誉、信用をできる限り尊重し、事実をありのままに公表する、という心がけが必要となります。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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