「国内出張はいいけれど海外出張は危険だから行きたくない、という社員がいます。業務命令違反ということで、懲戒処分にしても問題ないですか?」
いろんな人がいて、いろんな考え方があり、その対応に悩まされる・・・ということで、いろんなご相談をいただくわけですが、そのなかで出張にまつわるものもあります。
出張とは、働く場所である勤務地の変更をいいますが、一時的な勤務場所の変更であり、社員に対する指揮命令権には変更がありません(←転勤との違い)。
ただ、海外出張は国内出張と比べて働く環境が著しく異なり、社員本人やその家族に対する影響が大きいので、同じように考えるわけにはいきません。
そこで今回は、国内出張と海外出張の違いを踏まえ、海外出張を拒否する社員を懲戒処分できるのかについて確認していきたいと思います。
国内出張と懲戒処分
社員には労働契約の締結によって、会社の命令に応じる義務が生じます。これよって会社は社員の勤務場所などを指示・命令することができ、これを指揮命令権といいます。会社の指揮命令権の発動のことを「業務命令」と呼んでいます。
出張命令もこれに基づくものなので、出張命令は就業規則に根拠がなくても(規定がなくても)出すことができます。
この業務命令である社員への指揮命令権の有効性を担保するために、会社には懲戒処分の権限が認められています。つまり、業務命令に違反する社員に対するペナルティーを科することができる、ということです。
ただし、業務命令だからといって何でも命令できるわけではなく、企業の円滑な運営上必要であり、かつ合理的な範囲内にとどまるものでなければなりません。作業内容、作業方法等からしても一般常識的にみて普通の範囲である業務命令は正当とされています。
海外出張と懲戒処分
海外出張は、国内出張と比較して長期間になり、労働環境が著しく変化するので本人にかかる負担が大きくなります。また、その家族に与える影響も少なくありません。そのため、就業規則等に海外出張命令の根拠が求められます。
逆にいうと、就業規則に海外出張命令について規定されていたり、労働契約の内容にその旨の規定がある、採用時に誓約書が提出されているような場合には、会社は社員に海外出張を命令できると考えられます。
海外出張がよくある企業では、海外出張のたびに社員の個別の同意をとることは現実的ではなく、また就業規則等に規定されていることで、社員にしても予想できるからです。
ただし、海外出張の特殊性(長期出張、労働環境の大きな変化)から、海外出張命令を拒否することに正当な理由がある場合には、例外的に拒否できると考えられます。
たとえば、海外出張先の地域についてマスメディアで治安悪化が報道されており、会社にしても治安悪化を認識しているような場合です。たとえ会社が安全対策を講じていたとしても、その地域での業務遂行には危険があると考えられ、海外出張命令を拒否する正当な理由があると判断されるでしょう。この場合、海外出張命令を拒否した社員を懲戒処分にすることは許されないと考えられます。
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治安情勢の悪化が認識されている場合、海外出張命令を出す時点で、現地の状況や業務上の必要性を社員に十分に説明したうえで、個別の同意をとる必要があるでしょう。
「出張」とひとくくりにせず、ケースバイケースで会社としての対応を冷静に判断したいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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