「ある社員に転勤を打診すると、病気を理由に拒否してきました。持病のある社員に転勤命令を出すのはダメなのでしょうか」
病気の社員に対して勤務地を変更する配転を命じるということは、会社による転勤命令権の濫用にあたってしまうのか?というのが、このご相談のキモです。
会社は社員に対して健康配慮義務を負っているので、上司としてそのあたりを心配されたご様子でした。
自分の部下が実は病気を抱えていて働いていた、という事実を知ってショックなのに、さらに転勤命令の有効性を考えると、どんな対応をとるべきなのか?と悩んでしまいますよね。
そこで今回は、転勤命令の有効性とともに、会社として病気の社員に対する転勤命令をどう考えるといいのか、詳しく確認していきましょう。
転勤命令の有効性
転勤命令の有効性を考えるにあたって、まずポイントとなるのは「その社員の労働契約上で勤務地を限定する旨の合意があったか」という点です。
勤務地限定の合意があれば、その社員の同意がなければ、原則として転勤命令は無効となります(たとえば営業所で採用された、いわゆる現地採用の場合など)。
ただ、日本では「会社のいうとおりにその場所でその仕事をします」というのを前提として、労働契約を取り交わすのが普通ですよね。
そのため多くの裁判例では「会社は業務上の必要によって社員に、配転、転勤を命じることがある。社員は正当な理由がない限り、拒否してはならない」との旨が就業規則に明記されていることに基づいて、勤務地限定の合意を否定しています。
では、転勤命令が権利濫用となるのはどんなときなのでしょうか。会社として、人事権の濫用を避けるには、判例から次の点に気を付ける必要があります。
- 業務上の必要性があるか?
- 人選の合理性はあるか?(不当な動機・目的で行われていないか?)
- 手続きの妥当性・労務管理上の配慮はなされているか?
つまり転勤命令は、業務上の必要性と、転勤によって社員が被る不利益とのバランスによって、権利濫用かどうかが問われることになります。
病気の社員と転勤命令
冒頭でもお伝えしたように、会社は社員に対して健康配慮義務を負っています。そのため、病気の社員が自分の健康状態を明らかにして、会社に特別の配慮を求めた場合には、その社員の健康状態が悪くならないよう留意し、適正な人員配置を行わなければならない義務が会社にはある、といえます。
よって、会社が病気を抱える社員に転勤命令を出す場合、病気の性質や程度、転勤が病気に与える影響、(転居を伴う場合には)転居先の気候・風土による病気への影響などを考慮して、転勤によって病気が悪化することがないかどうかを確認しなければなりません。
病気の社員に対する転勤命令の有効性については、不当な動機や目的がないことをそもそもの前提として、その社員を転勤させることになった業務上の必要性と、転勤によって被る社員の不利益とを比較して判断されることになります。
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会社には、社員の病気に対して転勤がどんな影響を及ぼすかを慎重に検討することが求められます。本人から詳しく治療の状況を聴くとともに、主治医・産業医の意見も参考にすることが大切です。
会社が治療と仕事の両立に前向きな姿勢でいると、社員は安心して働くことができます。たとえば、転勤先周辺の医療機関の情報を提供することなども、社員の漠然とした不安感をほぐすのではないでしょうか。相談しやすい関係性を会社と社員の双方で築いていきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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