「入社試験のときに健康診断を実施しないといけないのかな?」
就業規則において、採用選考時に履歴書や職務経歴書とともに健康診断書(3か月以内に受診したもの)の提出を求めることが規定されているので、こんな疑問を感じる人事担当者の方は多いかもしれません。
労働安全衛生法では「雇入時の健康診断」について規定していて、会社に対して安全配慮義務を課している(罰則付き)ので、どうもややこしくなってしまいがちです。
というのも、雇入時の健康診断について「労働者を雇い入れるときは(行わなければならない)」としていますが、採用選考時に実施することを義務付けたものではないからです。
そこで今回は、採用時における健康診断で気をつけるべき点について、詳しく確認していきたいと思います。
雇入時の健康診断とは
安衛法では、「会社は、常用労働者を雇い入れるときは、その社員に対して医師による(決められた項目の)健康診断を行わなければならない。ただし、3か月以内に医師による健康診断を受けた人を雇い入れる場合、当人がその健康診断書を提出したのなら、それをもって雇入時の健康診断を実施したとみなしても差し支えない」といった旨が定められています。
健診項目としては、次の内容を実施しなければならないことになっています。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、胸囲、視力、聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 尿検査
- 心電図検査
この「雇入時の健康診断」は、常用労働者を雇い入れた際の適正配置、入社後の健康管理に役立てるために実施するものであって、採用選考時に実施することを義務づけたものではありません。また、入社試験への応募者の合否を決定するために実施するものでもありません。
なお、企業側には雇入時の健康診断の結果を社員本人に通知することが安衛法で課せられていますから、新入社員受入れのバタバタの中でうっかり忘れることのないよう注意が必要です。
採用選考で提出させる健康診断書とはどう違うの?
就業規則において、採用選考時に健康診断書の提出を求める内容が規定されている場合もあるでしょう。
この場合、応募者の適性と職務遂行能力を判断するためのものであり、雇入れ時の健康診断とは別ものだと考えるべきです。
また、採用選考時の健診について厚労省は、就職差別につながらないよう、健診が応募者の適性と能力を判断するうえで本当に必要かどうかを慎重に検討すべきだとしています。
(適性や能力の判断に必要のない場合の肝炎ウイルス検査、血液検査や健康診断を行わないよう指導しています。)
なお、入社試験への応募者の採用が決まった場合、採用選考時に求めた健康診断書の提出をもって雇入時の健康診断を実施したとみなすことに問題はありませんが、この場合は前述の健診事項を網羅している必要があります。
**
そもそも健康診断の結果など(健診結果、ストレスチェック結果、産業医との面談記録など)は、社員の健康管理や安全配慮に活用されるものです。ですが、内容が内容だけに不適正な使用がなされる可能性がないとは言い切れません。慎重な取扱いが求められるのは言うまでもありません。
そのため、2019年4月から安衛法に「健康診断に関する秘密の保持」について定めた条項が新設されました。対象となる情報や取扱担当者などの詳細(誰が、いつ、どんな情報を把握して、その情報を活用して、管理を行うのか?)をきちんと整理しておくことがますます重要になってくるといえます。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
■提供中のコンサルティング
■顧問契約・単発のご相談を承っています
■役に立つ無料コンテンツ配信中
■ブログの過去記事