入社する前提で奨学金を学生へ支給してはダメですか

スコーンを割る女性の両手。英文資料ペーパーの上に置かれたスコーン。紅茶のカップ。

卒業後、うちへの入社を前提に、奨学金を在学中の学生に支給するのは法律的にダメなの?うちとしては優秀な学生を確保できるし、学生にしても経済的な不安なく勉強に励んでもらえるのに・・・

 

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新型コロナウイルス感染症の影響で、学業の継続が困難な学生を支援しようと、このようなことをお考えの企業もあるようです。

 

企業の採用力強化につながれば、との思いがあったとしてもここで気をつけなければならないのは、労基法で「前借金相殺の禁止」が定められているということです。

 

お金の貸し借りがあると身分拘束につながるおそれがあるので、お金の貸し借りの関係と労働契約の関係は完全に分けなければならない、というのがその趣旨です。

「よかれ」と思ったことが法律違反にならないよう、今回は入社前提の契約金はなぜダメなのかについて、確認していきたいと思います。

身分的拘束を伴う前借金とは

ポットマットに置かれたコーヒーのカップ&ソーサ。

先にお伝えしたように労基法では「会社は前借金その他働くことを条件とする前借金と賃金を相殺してはならない」としています。

 

これを「前借金相殺の禁止」といいます。

「前借金」とは、労働契約の際や又はその後で、労働することを条件として会社から借り入れ、将来の賃金による弁済を約束するものです。

 

あまりピンとこないかもしれませんが、現在の労働契約関係でいうと、次のような例がこの「前借金」にあたります。

  • 「青田買い」といいながら、在学中の学生に入社させることを目的として支給する奨学金など
  • 中途採用者として、特に優秀なセールスマンや高度な専門知識者・技術者の「引き抜き」のための契約金

これらの金銭を入社後の給与から相殺するために差し引くことは、労基法違反になりますし、入社しない場合には全額を一括返済させるという契約も、公序良俗に反するので無効となります。

 

また、中途採用にあたって契約金を支払い、1年以内に退職する場合には返還を求めるというケースも、たとえば一度に100万円を超すような金額の返還を求められると通常は経済的な足止めとなるので、社員の意思に反した不当な拘束手段といえるときは無効とされています。

会社による貸付はどうなる?

チョコパイがのったお皿とコーヒーの入ったマグカップ。傍らに英文資料ペーパー。

前段の内容をコンサルティングなどでお伝えすると、「社員の家庭の事情で、生活必需品を買うための生活資金を会社が貸し付けて、後からその貸付金を給与から分割して差し引いたりすることもダメなのか?」といったご質問をいただくことがあります。

 

こういった場合、貸付の原因、期間、金額、金利の有無などを総合的に判断して、その会社でずっと働くことが条件となっていないという事情が明らかなのであれば、「前借金相殺の禁止」に抵触しません。身分的拘束を伴うかがポイントとなります。

 

なお、労基法が定める相殺禁止は、相殺のなかでも会社側が行う場合のみを禁止しています。たとえ、社員の「合意」や「同意」があったとしても、会社側が主導しているのなら相殺することはできません

 

ただし、社員が「自分の意思」によって前借金と賃金を相殺することは禁止されていません。(注意:社員から相殺の意思表示があったような形式が取られている場合でも、実質的にみて会社側による強制と認められる場合は労基法違反となります。)

 

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「社内貸付制度では社員が家を建てるときなど、(融資額も返済額も)高額なので返済期間が長期間になるのはいいの?」といったご相談をいただくことがありますが、その貸付金が身分的拘束を伴うものではないと明らかな場合、労基法に抵触しません。

具体的には下記のとおりです。

  • 貸付が社員の便宜のためであり、社員の申出に基づくものであること
  • 貸付期間は必要な範囲であって、貸付金額も1か月の給与や退職金の充当によって生活を脅かさない程度に返済できるものであること
  • 返済前であっても退職の自由が制限されていないこと

以上、参考にしていただければと思います。

イチゴチョコのアイスバーが2本のったお皿。傍らに紫色の花。

社会保険労務士高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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