上期の人事評価が5段階評価で最高ランクのS評価の社員。下期の評価期間中ちょうど育休を取得していたので勤務実績がない。年度の評価として、最低ランクのD評価をつけると、法律的にマズイのだろうか?
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会計年度の上期・下期と連動して人事評価を行う企業は多いでしょう。業績(社員の努力)とインセンティブ(ご褒美)の関係がわかりやすいからです。そのため、半期の評価期間と育休期間がかぶっていて、出勤ゼロの社員への評価をどうすべきか、悩まれるケースも多いようです。
評価いかんによっては、育児・介護休業法が禁止する「不利益な取扱い」に抵触するのではないか?というのが、一番の懸念事項でしょう。
そこで今回は、育児休業中の社員の人事評価を会社はどう考えるべきなのかについて、詳しく確認していきたいと思います。
育児休業と出勤率
育児休業は、育児というプライベートな事由のためのものなので、会社に育児休業期間中の給料の支払い義務はありません。つまり、無給であっても差し支えはありません。
この休業期間は年次有給休暇の付与要件としての出勤率計算においては、出勤したものとしてみなされますが、退職金の算出や賞与の取扱いについて算入義務はありません。出勤率に応じて、不支給や減額とすることができるということです。
育介法において、育休取得の不利益取扱い禁止(育休をとったことを理由とする解雇などを禁止)が定められています。とはいえ、出勤率に応じた不支給や減額とする取扱いは、ノーワーク・ノーペイの原則によるものなので、不利益取扱いにはあたりません。
ただし、たとえば「出勤率90%を満たさなければ賞与は全額不支給」というような、高い出勤率を設定して、それを満たさなければ不支給となるといった極端な場合は、公序良俗に反することになるでしょう。
では、人事評価において「育児休暇を取得した」という事実をどう評価するべきなのでしょうか。
育児休業と人事評価
育児休業をして勤務実績がない社員と、通常通り勤務している社員を同じ土俵で評価すること自体がとても難しい問題です。上期の人事評価がS評価だったからといって、休業して出勤していない下期もS評価としなければならないなら、かえって不自然な取扱いだといえます。
人事評価のうえで会社の裁量は広く認められるので、評価尺度S・A・B・C・Dのうち下期を最低ランクのD評価とすることも、人事評価の裁量の範囲として可能ではあります。
ただ、法律的には許容の範囲とはいえ、本人のモチベーションを考えるとどうでしょうか。人事評価は会社あるいは上司(評価者)が「こうなってほしい」という期待の方向に、社員の行動を変える機能を持っているからです。
この場合だと、「いままで成果を出してきたのに、育休をとっただけで評価されなくなるのか」「この会社では休むことはいけないことなのか」「これを機会に辞めてしまおうか」など、あらぬ方向に社員を導いてしまいかねない・・・と思いませんか?
そこで、実務的には標準(真ん中)のB評価として扱う、直近の人事評価が標準未満の評価(CやD評価)であったならそれと同一の評価として扱うことが、いらぬトラブルを回避するポイントとなるでしょう。
ただし、中長期的な人材マネジメントを考えるにあたって、裁量の余地を残しておくのもひとつの方法です。上期にS評価であった育休社員に、職場に復帰後も同じようにS評価にふさわしい質の高い仕事を望むのであれば、通年でAもしくはB評価あたりに据えるのがマネジメント上妥当かもしれません。
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企業における人材の評価には、自然科学の世界のような評価の普遍性はありません(「ステンレスのほうがアルミよりも硬い」みたいな)。
世の中の経済状況が変化し、技術が進化し、会社の戦略が変われば、会社(上司)が社員に期待することも変わるからです。
人事評価でいちばん大切なのは、会社が社員に「何を期待しているのか(何のために、どんなことを評価するのか)」を明示して正確に伝えること、これを忘れずにいたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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