「月末に退職予定のCさん、すでに退職願も提出されている。違反行為が発覚したけれど懲戒解雇の対象になるのか??」
企業秩序を乱す社員に対して、会社がその回復のために懲戒処分を行うことは当然の権利として認められています。
ただし懲戒処分を行うには、あくまでも本人が会社に在籍していることが前提なので、退職した元社員に対する懲戒処分は法的な根拠がなく無効です。(辞めた社員を企業の外に追い出す必要がありませんよね、懲戒解雇も必要ナシです)
では、社員が退職願を会社に提出してきた後に、本人の違反行為が発覚した場合はどうでしょうか?
そこで今回は、社員の退職願と会社の懲戒解雇はどちらが優先されるのか、会社としてとるべき対応について詳しく確認していきたいと思います。
社員の退職時期はいつになるか
退職願と懲戒処分の関係において、まず押さえておきたいのは、期間の定めのない雇用契約の場合では社員はいつでも退職したい旨を申し出ることができる、ということです。
民法では社員から退職願が提出されて2週間を経過すれば、たとえ会社がその承認を拒否したとしても、雇用契約は終了し、自動的に退職になってしまいます。
就業規則において、たとえば、「社員が自己都合により退職しようとするときは、原則として退職予定日の1か月前までに、会社に申し出なければならない」旨を定めるケースもあるかと思います。
ただ「1か月前までに申し出ること」と定めても、前述のとおり、(本人の辞めたい意思が強ければ)結果として、2週間経過後に労働契約は終了します。では、就業規則に「1か月前までに申し出ること」と定めても意味がないのか?というと、それはそうではありません。
就業規則において退職時期の予告期間を設けることの意図は、急な退職の申出をできるだけ抑制しようとするところにあります。
業務引継ぎが十分に行われないまま急に退職されると、これまでの業務ノウハウが会社に蓄積されない、マンパワー不足で残された周りの社員が疲弊する、突然の人員補充に余分なコストが増える・・・など職場のチームワークに少なくない影響を与えるからです。
実務的にどうするか?
前段でお伝えしたように、退職願が提出されてから2週間を過ぎて懲戒解雇処分にしても、それは退職者に対する処分として無効となります。
社員から退職願を提出されてから、その社員の違反行為が発覚した場合、会社としては
- 本人の同意により退職日を延期する
- 退職願が提出されて2週間を経過するまでに会社側で(違反行為を)調査して懲戒処分を決定する
このいずれかで対処しなければなりません。
もしもその社員の違反行為が横領や不正取引であった場合、事実確認の調査は長期間を要するかもしれません。
そんなとき、本人から「もしも万が一、退職後に懲戒解雇事由が判明したときには、退職金の請求権を放棄する、もしくは受領した退職金を返還する」旨の念書が本人の自由意思によって提出されたのであれば、もちろんその合意は有効です。先の1、2の対応をとらずに、本人の退職を認めてもよいでしょう。
ただ、会社として留意しておかなければならない点は、すでに社員から退職願の提出があった、という事実です。みずから会社を去ることを意思表示したことは、違反行為について情状酌量の余地があるといえます。
違反行為をした社員がすでに退職の意思表示をしているにもかかわらず、あえて懲戒解雇する場合には、その違反行為がその社員の長年の勤続による功労を消し去ってしまうほど重大なものでなければならない、との旨が示された判例もあります。
そこで退職願をそのまま受理するか、それを認めずに懲戒解雇にするのか、実際の事情や状況を考慮したうえでの慎重な判断を、結果的に会社には求められるといえるでしょう。
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仕事はチームでやるものなので、企業秩序を守ることを教育し、企業秩序の違反を未然に防ぐことは、会社の業績に大きく影響します。辞める社員の退職前にごたごたしても、通常の仕事が中断される、感情的に乱される、職場がぎくしゃくする・・・など、残される社員にとっては百害あって一利なしです。
「チームに貢献するとはどういうことなのか」「どうするとチームや会社にダメージ(損害)を与えることになるのか」など、チームプレイのあり方について、普段から職場で共通の意識を育てたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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