どんなときなら年休の時季変更権をつかえますか

ページがめくられた本の上に置かれた赤いバラの花たち。ドーナツののったお皿。ピンク色のマグカップとミトン。アロマキャンドル。

現場のリーダー社員が、どんなときなら時季変更権をつかっていいのか?と悩んでいる。みんなの希望を聞き入れると、その分フォローするリーダーの負担になっているようだ。なんとかしてあげないと・・・

(メーカー勤務 総務部長 談)

 

会社に認められた年休の時季変更権はいつでも行使できるものではありません。年休付与は社員の希望通りに、というのが原則だからです。時季変更権は「事業の正常な運営を妨げる場合」に限定して認められますが、「事業の正常な運営を妨げる場合」とはどんな場合でしょうか。

 

年休取得の義務化の流れから、マネジメントの負担増に悩む管理職のために具体例を示してあげたいところですよね。

 

 そこで今回は、時季変更権の行使が認められる「事業の正常な運営を妨げる場合」の具体例について、詳しく確認していきたいと思います。

会社の時季変更権とは

丸テーブルに飾られた真っ赤なバラの花。積まれた本のうえにカメラが置かれている。

そもそも労基法上の年休はどのような場合に成立するのでしょうか。

 

結論からお伝えすると、通常の場合は社員の年休取得の申出のみで成立します。会社は「事業の正常な運営を妨げる事由」がない限り、その指定された日に休暇を与えなければなりません

 

たとえば、社員が「〇月〇日に年休をとろう」と年休日を決めて、会社に申し出たとします。

 

そして、その日から指定した年休日の前日になるまでに会社から「(事業の正当な運営を妨げる事由が発生したので)業務上その日を休暇日とするわけにはいかなくなったので、他の日に変更します」との旨の時季変更権の行使がない限り、社員はそのまま休んでもOKだということです。当日は、適法に年次有給休暇として成立します。

 

そこで、「事業の正常な運営を妨げる場合」とはどんな場合のことなのか、判断の基準が問題です。その点について、通達では「個別的、具体的、客観的に判断されるべきもの」としています。

つまり、一律に決まるものではなく、具体的なシチュエーションに応じて、個別かつ客観的に判断しなくてはなりません

時季変更権の行使が認められるケースとは

ポトスの鉢植。メモ帳と鉛筆。家のかたちをした黒板消し。

では、時季変更権の行使が認められる「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、具体的にどんな場合なのでしょうか。一般的に時季変更権の認められる場合をみていきましょう。

 

会社が社員の年休取得の申出を拒否できる事由は、「単なる繁忙」ではダメです。業務に支障をきたすような場合でなければなりません

たとえば、次のような場合が挙げられます。

  • 風邪やインフルエンザで多くの社員が欠勤してる
  • 許容できる年休予定人員を大幅に上回る申出が、同じ日に重なった
  • 余人をもって代えがたい重大な業務をあるとき

 

判例では、「すでに年休で休んでいる者が多く代替勤務や補充が難しい場合」や、「短期間の集合訓練の期間中における年休取得の申出」などについて、会社の時季変更権の行使を正当としています。

 

では、時季変更権の行使が認められる具体的なシチュエーションを下記にまとめましょう。

  1. 異常な事態の発生が予定され、特別な対応が必要であり、通常とは異なって特別に繁忙となる具体的な理由がある場合(例)大量の原材料の入荷が予定されており、原材料の性質上その日中に処理しなければならない、セレモニーがあって多数の得意先から見本品の問い合わせがある、決算期末の棚卸日にあたっている など
  2. 当日、すでに他の社員からも年休取得の申し出があって承認しており、代替要員を確保することが困難な場合で、業務に支障をきたす場合
  3. 風邪やインフルエンザなどで他の社員の欠勤が多く生じた場合で、2)と同じく代替要員の確保が困難な状況で、そのため、業務に支障をきたす場合
  4. 当日、その社員でなければ処理できない重要な業務のある場合(例)定期健康診断日の衛生管理者、税務調査のある日の経理担当者、行政官庁の担当者が来訪予定であるときの社内担当者、外国人の来訪客があるときの通訳担当者 など
  5. 当日、出張や教育研修など特命をもった業務があらかじめ命じられている場合

 

会社の時季変更権が認められる場合は上記のとおりですが、通常のオフィスでは、社員からの年休取得の申出について、

 

上司「当日は忙しいから他の日に代えてもらえないか」

部下「わかりました、いいですよ」

・・・こういったやりとりによって、年休日の変更をスムーズにおこなっているケースは多いのではないでしょうか。

 

これは、時季変更権が行使できるような要件が備わっていないときに、「なるべく他の日に変更してほしい」との希望を上司が社員にお願いする、「時季変更の申込み」にあたります

 

この上司の「申し込み」(お願い)に社員が応じて他の日に変更することで合意できれば、社員の承諾によって年休日の変更が成立することになります。

 

このことからも、日ごろから上司と部下の間で、またはチーム単位で仕事の進捗状況についてのコミュニケーションが必須であることがわかりますね。

 

なお、上司のこの申し込みに社員が応じるかどうかは社員の自由なので、応じなかった場合にはそのまま当日は年休となります。変更に応じないからといって、当日休んだ社員を欠勤とすることはできませんし、人事評価などで不利益に扱うことも許されませんので、冷静な対応が求められるのはいうまでもありません。

白のクロスが掛けられたテーブルに置かれた木製のトレイ。2客のカップ&ソーサが並んでいる。ガーベラの花。

社会保険労務士高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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伸びる会社の就業規則作成コンサルティング。花びんに活けられた真っ赤なバラ。白の置時計。
社員を伸ばす人事制度構築コンサルティング。談笑するビジネススーツ姿の男女。

無料コンテンツ。ページが開かれた分厚い書籍。ガラス瓶に活けられた四つ葉のクローバー。
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