「社員には事情をちゃんと説明して、転勤の同意を得ようと思うが、社員の家庭の事情をどこまで考えるべきなのか?」
経営状態によって、社員を他の支店や工場へ配置転換せざるを得ない場合もあるかもしれません。ただ、その転勤先が遠方で現在の住まいからの通勤が難しいなら少なくない負担を強いることになるので、会社としては社員の家庭の事情が気がかりです。
人事権の濫用とならないよう社員の不利益を軽減するにはどの程度までの措置をとればいいのか、悩まれる経営者、人事担当者の方は多いようです。
そこで今回は、遠方への転勤に際して、会社は家庭の事情を斟酌するべきなのか、するとしてもどの程度の措置をとれば権利濫用とならないのか、詳しく確認していきたいと思います。
配転命令が有効になるとき、権利濫用になるとき
会社が社員にそのたびごと同意をとってから、転勤などの配置転換を行うことは問題ありません。では、会社が一方的に命じることはできるのでしょうか?この点について、判例によると配置転換の命令が有効であるためには、次の2点がポイントとされています。
- 配置転換の命令権の根拠が必要であること
- その根拠は労働契約の内容によること
つまり、労働契約の範囲内であれば、会社は配置転換を命令できるということです。
労働契約の範囲内であるかどうかについても、明文化されている場合はそれによります。明文化されていないときには、就業規則の規定、企業内における慣行、労働契約がなされた時の状況などから、合理的に判断されることになります。多くの場合は、労働契約で職場・職種を限定する特約の有無がカギとなるようです。
次に、配置転換の命令が権利濫用となるのはどんなときなのでしょうか。会社として、人事権の濫用を避けるには、判例から次の点に気を付ける必要があります。
- 業務上の必要性があるか?
- 人選の合理性はあるか?(不当な動機・目的で行われていないか?)
- 手続きの妥当性・労務管理上の配慮はなされているか?
遠方への転勤で権利濫用の点で問題となるのは、上記のうちで3)です。つまり、本人の個人的事情は通常は考慮されないとはいえ、社員が通常の甘受すべき程度を超える場合には配慮し、その企業で定めている配転手続き(内示など)を踏んで、拒否する社員がいればその者への説明や説得が必要だということです。
会社に求められる不利益軽減の措置とは
前段でお伝えしたように、会社には社員の不利益を回避もしくは軽減すべき義務があると考えられています。
では、配置転換の命令を行うとき、権利濫用とされないためには、実務的にどのような対応が必要となるのでしょうか。
権利濫用の判断において、多くの場合では社員の家庭の状況が問題となります。つまり、配置転換の対象となる社員の家庭の状況に応じた配慮を行うことが大切です。
そのファーストステップとして、本人の家庭状況についてまずは事情を聴くことです。会社は社員のプライバシーに関わる事実を知らないのが通常だからです。
その聴取した内容から、社員本人やその家族に相当な不利益を及ぼすことが十分推測できるときには転勤命令を撤回し、対象者の人選を再検討することも必要となるかもしれません。
また、なるべく単身赴任の形態は避けることとし、もしそれが避けられないのであれば、できる限り社員の負担を軽減する措置をとることです。
たとえば、引っ越し代、転勤先での賃料負担、単身赴任手当の支給、週末に家族のいる自宅に帰宅するための旅費の支給・・・といったことも考えられます。
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社員に生じる負担(不利益)は、金銭的なものだけではありません。
「ずっと診てもらっていた病院に行けなくなる」「親の付き添い通院ができなくなる」「新しい土地でいまから保育園に入れることができるの?」本人の健康、親の介護、育児に対する肉体的、精神的な不安感も、金銭面以上に負担に感じるのではないでしょうか。「これからどうなるんだろう」という不安に対するサポートが大切になってきます。
家族に病気療養中の者がいるなら転勤先周辺の医療機関について、小さいこどもがいるなら地域の保育環境についての情報提供を行うことも、社員の負担軽減につながると思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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