「うちは1年単位の変形労働時間制をとっていて、月によって所定労働時間が大きく変わります。月間の労働時間の長い短いで賃金単価も変動させないといけませんか?」
複数の店舗を経営する企業では、人手不足の対応策に営業時間を短縮する場合があります。労働時間の短縮のため、変形労働時間制を導入する職場もあるでしょう。
結論から申し上げると、月給制の社員にとって、月間の所定労働時間が異なったとしても賃金に影響しません。
とはいえ、日給や時給で賃金が計算されることの多いパートにとって、影響は少なくありません。
そこで今回は、労働時間(営業時間)が短くなることによって、パートの賃金(日給・時給)はどのような影響を受けるのかについて詳しく確認していきたいと思います。
変形労働時間制と月給制の関係
前述のように、1年単位の変形労働時間制では、月によって所定労働時間が大きく変わってきます。
たとえば、下記の例では平均すると1週40時間以下にはなりますが、やはり月により所定労働時間が大幅に異なります。
【1年単位の変形労働時間制3か月間の所定労働時間(例)】
10月 | 126時間 |
3か月間の合計 525時間 |
11月 | 227時間 | |
12月 | 172時間 |
月給制による社員については、月間の所定労働時間がこのように異なっていても賃金に影響はありません。たとえば月給が30万円であれば、10月(126時間)でも、11月(227時間)でも、12月(172時間)でも30万円のままです。
このとき、月別に1時間あたりの賃金単価を計算すると、月間の労働時間数によって賃金単価は異なります。ただ、法令では「月給制の賃金は、その金額を月間の所定労働時間数(月によって所定労働時間が異なる場合には、1年間における1か月平均所定労働時間数)で除した金額」との旨が規定されています。
※1か月平均所定労働時間は、1年間の所定労働時間数を12で割って算出
よって、月間の労働時間が異なることで時間単価のアンバランスが生じることはありません。
ただし、年次有給休暇を取得する場合には、所定労働時間が長い日であろうと、短い日であろうと、同じ1日には違いありません。もしも年休を所定労働時間の長い日ばかりを選んで取得したがる社員がいるなら問題です。売り上げの上がる繁忙期であり、集中して働くために所定労働時間を長く設定している、という会社の意図が伝わっていないかもしれないからです。
変形労働時間制と日給制・時給制の関係
では本題の、日給や時給で計算されることの多いパートの場合についてみていきましょう。
【例:日給制の場合(日給1日1万円)】
- 1年単位の変形労働時間制をとっている職場
- 月々の労働日数は下記の通り(カッコ内は月間トータルの賃金額)
4月 | 5月 | 6月 |
22労働日 (22万円) |
18労働日 (18万円) |
23労働日 (23万円) |
上記の例をみると、月によって月間トータルの賃金額が大きく変動するのがわかります。
1年単位の変形労働時間制を職場へ導入することにより、労働時間の短縮を休日の増加で行ったとすれば、すなわち労働日数が減少することになります。
パートの日給の金額を今まで通りに据え置くとすれば、労働日数が減った分だけ賃金総額が減るというわけです。
日給制パートの合理的な労働条件の設定を考えるなら、1年単位の変形労働時間制でも総労働時間数が変わらない場合は、日給制パートの年間を平均した賃金が減少しないよう取り計らうことがポイントです。
また、労働時間の短縮となる場合でも、下記にあげるようなことが問題点として挙げられますから、会社内でよく議論する必要があります。
- 日給制・時給制パートについては、「労働日数の減少や所定労働時間数の減少による月間トータルの賃金額の減少だからやむをえない」、というふうに考えるのか?
- 会社が一方的に決めた(月間の賃金の減少につながる)時短は、月給制の社員の労働条件の向上にはなっても、日給制・時給制パートには不利益変更となるのではないか?
- 労働時間の短縮を目的として行われるのだから合理的な理由があるとはいえ、反対するパート社員にもその効力は及ぶもの、と考えてGoするのか?
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むやみやたらな残業をやめることは、生産性の高い働き方を実現するための第一歩です。
ですが、「労働時間の短縮」ばかりにフォーカスしていると、変形労働時間制の導入時に前述のような点を見逃しがちになります。
特に日給制や時給制で働くパートタイマーが職場のメンバーである場合、彼ら・彼女らのモチベーションにかかわってきますので、そういった点を配慮して新制度を定めることがとても大切です。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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