退職後にその社員の不正が発覚した。懲戒処分にしたいところだが、すでに辞めた社員のことを言っても仕方がないのか・・・(管理職談)
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このような場合、ご心中、察するに余りありますが、法律的に懲戒処分はできないのでしょうか。
懲戒処分とは企業秩序を乱したことに対するペナルティーなので、あくまでも会社に在籍していることが前提だからです。
ただ、退職した社員について「懲戒処分にするべきなのか?」という悩みが深くなるのは、退職金の不支給もしくは返還についての問題があるときです。
そこで今回は、社員の退職後に違反行為が判明したとき、懲戒処分と退職金の問題にどう対応すべきか、詳しく確認していきたいと思います。
退職した社員と懲戒処分
冒頭でお伝えしたとおり、懲戒処分とは企業秩序を乱した違反者に対して、企業秩序を守るために課せられる制裁罰です。
よって、退職してしまった元社員に対する懲戒処分は、法的根拠を欠くため無効となります。
すでに退職してしまった人は、もはや企業のなかにいないので、秩序を維持するための心配がいらないからです。
懲戒処分のなかでも最も重い処分である、企業外に排除するという懲戒解雇の必要性もすでに消滅してしまっているといえます。
この点について、参考になる裁判例の内容を下記に挙げます。
【事例】
- 社費で海外留学をしていた社員が留学期間の終了直前に、一身上の都合で退職したい旨を会社に7月下旬申し出た。
- 会社はこれを承諾せず、8月31日付けでこの社員を懲戒解雇にした
【結果】
- 退職の申し入れ後14日経つと退職の効果が発生しており、この懲戒解雇は退職後なされたものであり無効
- 懲戒解雇は無効のため会社に退職金の支払い義務がある
退職金の取扱いは就業規則による
退職者に退職金の返還請求ができるかどうかは、結論からお伝えすると、まず就業規則(退職金規程)において、不支給や返還の規定がなければなりません。
次に、就業規則(退職金規程)の定め方が問題となります。具体的には、次の2点がキーポイントになります。
- 退職金規程における退職金の不支給事由として「懲戒解雇」という処分を受けたことを不支給の要件とするか
- 「懲戒解雇に該当する事由の行為があったとき」という処分の有無にかかわらず、退職金不支給とすべき欠格事由となる「行為そのもの」があったときを要件とするか
多くの場合は(1)のように、「懲戒解雇」という処分のあったことを不支給の要件としています。この場合、退職してしまった元社員を懲戒解雇するわけにはいかないので、退職金規程に分割支払いの定めがない限り、労基法のとおり「退職後、権利者の請求があった場合に7日以内」(退職金規程に支払時期が明記されていればこの限りではありません)に退職金を支払わなければなりません。
つまり、社員の退職後に退職金を支払ってから、本人の重大な秩序違反行為が発覚したとしても「退職金を返せ」と請求するわけにはいかないのです(本人の重大な違反行為によって会社の被った損害の賠償は、損害賠償請求として求めることになります)。
一方(2)は、懲戒解雇という「処分」を不支給事由としていなくて、懲戒解雇に該当するような「行為があったこと」を不支給要件としています。この場合には、処分があったどうか、発覚したかどうかにかかわらず、その事由の発生したときに「退職金をください」という(その社員の)請求権はなかったことになります。もし発覚せずに退職金が支払われたとしても、本来は支払事由がなかったにもかかわらず(法律上の原因なくして)利益を受けたことになります。そのため、会社は退職金の返還を求めることができます。
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会社をすでに辞めてしまった社員による不正の発覚で、普段の仕事もあるのに、お金(退職金)に関してごたごたするのはやる気が削がれますよね。
せっかくなら、エネルギーは前向きな事業運営のためにつかいたいものです。
そこで、退職金規程で支払時期について、懲戒事由行為があるのかどうか調査などのために、退職後1~2カ月程度の余裕を設定しておくのもひとつの方法だと思います。
(退職金規程において懲戒解雇に該当するような「行為があったこと」を不支給要件としていることが前提です)。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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