最近、同僚の動きがおかしい。帳簿などの経理関係書類を、どうも不正操作しているような気がする。だが現場を実際に目撃していないので、はっきりは分からない。こんな状態で上司に報告はできない・・・
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同僚の不正行為をうすうす感じていた経理部員のAさん。その後、抱いていた疑念が事実だったことがわかりました。では、同僚の不正行為を上司に報告や相談をしなかったAさんは、「不正を見逃した」として懲戒処分の対象となるのでしょうか?
ここでポイントとなるのは、Aさんがこの不正を行った社員に対して管理監督する職務上の注意義務を負っていたのかどうかです。
そこで今回は、職場で不正行為が発覚したときに問題となる管理職の指導責任とはどういったものなのか、について詳しくみていきましょう。
管理職の部下に対する指導責任とは
会社の社長が全社員をいちいち指揮命令して、ひとりひとりを働かせることは物理的に困難です。そこで、課長や部長などの職制を通して社員を指揮監督して、業務を運営していくことになります。
つまり、管理職には部下を指揮監督する権限を、会社から与えられていることになります。ここで大切なのは、その部下に対する指揮監督の権限を適正に行使する義務が管理職にはある、ということです。
この職務権限の行使を怠ったときには職務怠慢となり、管理職としてその責任が問われることになります。
たとえば、工場などの現場で部下が安全帽を着用して業務にあたらなければならないことになっているのに、それを守らない社員がいたとします。指揮監督の権限がある現場責任者がそれを知りながら、着用を指示しないで放置した場合には、「部下の安全に反する行動を黙認した」として監督責任を問われます。
裁判例をみても裁判所は、部下の不正行為を管理監督しなければならないという注意義務に違反したことを理由に、上司の責任を認めており、(その管理職の)懲戒処分を有効と判断しています。
同僚として責任を問われるのか?
前段でお伝えしたように「同僚の不正を見逃し、報告を怠った」という理由で、Aさんの懲戒処分には、Aさんの立場が不正をした社員を管理監督する注意義務を負っている立場にあるかどうかがキーポイントとなります。
Aさんに帳簿をはじめとする経理関係書類をチェックする権限があって、職務上の義務がある場合には、「(不正を行った社員の)不穏な行動に以前から気づいていたのに放置したため、会社の損害が拡大した」として、Aさんの注意義務違反は重大な過失であるといえます。
重い懲戒処分が考えられるでしょう。
一方、Aさんが不正をした社員に対して管理監督する職務上の地位も権限もなく、「なんとなく気づいていた」という程度なのであれば、会社はAさんに対する懲戒処分は行えません。
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管理職のポジションにあって、もし部下のふるまいや発言に「?」と、ふと疑問を持つことがあれば、その行動や言動の裏にある「背景」を見極めるのも、管理職の大切な仕事のひとつといえるでしょう。
部下の行動や言動の裏にある気持ちや背景を把握しておくことで、「思いがけない事態」にならずにすみます。
普段から「思いがけない事態」につながる何らかの兆候はあるはずなので、これを見逃さないことです。
たとえば、意気消沈している社員がいたとします。
その態度が、仕事に対する不満なのか、チームへの貢献意欲(があるのにそれが実現していない)なのか、プライベートの問題を抱えているのか・・・どんな背景があるのかを思いやることで、本人に対する接し方は変わってきます。
何気ない声掛けなどからの反応をみることで、問題の未然防止につなげたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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