ドラマを見ていると、その終盤で、主人公から預かっていた退職願を上司が「これはもういらないよな」と本人に突き返し、涙ながらに主人公が退職願をビリビリ破り捨てる・・・といったシーンがあります。
これをオフィスでの日常に置き換えると、「社員はどんなとき退職願を撤回できるのか?」という疑問がふと浮かんできます。
実は退職願は2パターンに分かれます。ひとつは、社員からの一方的な解約の意思表示である「辞職」、もうひとつは会社との合意に基づいて雇用契約を解約しようとする「合意解約」です。
会社が取るべき対応も変わってきますので、今回は、「辞職」と「合意解約」という退職願の2パターンの違いについて詳しく確認していきたいと思います。
「辞職」の場合
契約の解除とは、簡単にいえばいったん有効に契約が成立した後で、契約をやめにするということです。
民法では、この解除の意思表示は契約の相手方の地位が不安定になるのを防止するため、撤回できないとされています。
「やる」と言ったかと思えば「やめる」と言ったりと、意向がコロコロ変わるようなら、それにいちいち振り回されてしまい、相手方の利益を害するからです。
よって、社員による一方的な解約の意思表示である「辞職の意思表示」が会社側に到達し、効力が生じた後は撤回することはできないとされています。
辞職の場合、会社側にその意思表示が到達した時点で効力が発生して、撤回することができません。期間の定めがない雇用契約においては、原則として辞職の意思表示から2週間を経過すれば退職となります。
ただし、撤回ができないとする趣旨は、相手方の利益を保護することにあるので、(辞職の意思表示の相手方である)会社側の同意があれば、撤回することは可能です。
「合意解約」の場合
社員からの合意解約の申込みとは、雇用契約を会社側との合意によって終了させようとするものです。
通常の契約の申込みでは、承諾期間が定められている場合(「2週間後にお返事をください」など)には、その期間内はその申込みを取り消すことはできないという、撤回の禁止が民法において規定されています。
雇用契約の場合にもこの民法上の原則が適用されるとすれば、退職願の撤回はできないことになります。
ですがこの民法の規定は、契約の申込みを受けた相手方に対する期待(契約を締結したい)、承諾までに費やされるコスト(準備の手間や経費)を考慮して、申込みを受けた者を保護しようとする趣旨によるものです。よって、これまで信頼を積み上げて人間関係を築き、継続的に続いてきた雇用関係を消滅させる合意についての申込みには、必ずしもあてはまりません。
また、社員からの合意解約の申し込みは、いっときの激情の波に飲まれて行われるのも多いのではないでしょうか。
雇用契約の解約は、社員の日常生活を支える源泉を失わせるなど、社員に大きな不利益をもたらします。その反面、合意解約の申込みが撤回されたからといって、会社の受ける不利益はさほど大きなものではありません。
そこで合意解約の場合、信義則に反する特段の事情がない限り、会社側が承諾したとする意思表示があるまでは、これを撤回できるとされています。つまり、会社側が承諾の意思表示をする前に、社員が合意解約の申し込みを撤回すれば、退職とはなりません。
なお、就業規則などで特段の定めがない限り、会社側が承諾の意思表示として、辞令書の交付や厳格な手続きなど特別な様式による必要はないと考えられています。
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社員からの退職の申出が辞職にあたるのか、合意解約の申込みにあたるのかは、社員の意思を含めて事実関係によって決まります。
一般的には、退職を申し出る社員は、円満に退職したいと考えていることがほとんどだと思います。
よって、社員から退職願が出された場合、会社側が慰留してもしなくても、その態度にかかわらず「雇用契約を終了させる」という意思が客観的に明らかな場合に限って辞職の意思表示としてとらえ、そうでない場合には合意解約の申込みととらえるのが妥当だと考えられています。
会社としては、社員本人の意向を冷静に聞き、選択権を与えること(=会社側が一方的に決めつけない)が、のちのちのトラブルを回避するポイントになってくるでしょう。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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