飲み会が労働時間になるとき、ならないとき

オープンテラスのデッキテーブルに並んだ生ビールのグラス。

「テレビドラマで会社の飲み会を勤務時間として申請しているシーンをみた社員から、”うちの会社ではダメなんですか?”と質問されて、しどろもどろになってしまいました。法律的にはどうなるのでしょうか?社員が納得するような根拠はありますか?」

 

今の季節は社内や仕事関係者で暑気払いの会を催す機会も多いのではないでしょうか。そのためか、コンサルティングの中でも「飲み会」にまつわるご質問をいただくことがあります。

 

「飲み会」とひとくちにいっても、仕事にまつわる飲食の機会といえば、得意先の接待、会食付きの打合せ、取引先の開店パーティ、社内の送別会や忘年会・・・などなど、いろいろなものがあります

 

そこで今回は、これらの飲み会(仕事関係の飲食の機会)が労働時間になるとき、ならないときについて整理していきたいと思います。

飲み会が労働時間にならないとき

砂浜に埋められたビールの入ったグラスと瓶ビール。

まず「飲み会が労働時間にならないとき」をおさえておくとわかりやすいので、こちらからみていきましょう。

 

得意先などへの接待飲食や宴会は、会社の終業時刻後に行われるので、「時間外労働にあたるのでは?」と、部下を同伴させるとき判断に迷われる管理職の方も多いかもしれません。

けれど、つぎの2つの要件を充たさない限り、業務とはいえないので原則として労働時間となりません。

  1. 積極的な特命(余人をもって替えがたい、その人にしかできないミッションがある)
  2. 業務上の緊急性(仕事の上で急ぎの対応が必要である)

たしかに企業社会においては「接待も仕事のうち」といった風潮もあり、実際に社用の交際費として経費の支出が認められているケースもありますが、飲食が主な目的の場合には労働時間にはなりません

飲み食いする時間をもって、「1週40時間、1日8時間」という罰則付きで遵守が強制されている労基法上の労働時間として考えるのは、理屈に合わないからです。

 

また、社員同士で行う歓送迎会や忘年会は当然ながら労働時間になりません(よって、業務との関連性がないので、その帰り道での事故は原則として労災保険の通勤災害には該当しません)。

 

打合せや会議など仕事上の目的が終了してからの懇親会も、その席でなんらかの仕事の話題がのぼったとしても(そしてたとえそれが仕事上で役立つ内容であったにせよ)、業務としてみることはできない(労働時間にならない)と考えられています。

わが国の一般的なワークスタイルとして、帰宅途中に居酒屋に立ち寄って一杯やりながらでも仕事の話が行われるのが通常であるため、「業務上の話をした」という点で区分することは難しいからです。

飲み会が労働時間になるとき

食事のお皿とワイングラスがならんだレストランのテーブル。

仕事が終わってからの得意先などを接待して行う飲食や宴会などは、飲食がメインの目的である場合には労働時間にならないことは、前段でお伝えした通りです。

 

けれど、それらの飲食が仕事と連動して生じる場合には、労働時間として考えられます。たとえば、つぎのようなケースです。

  • 社員が新商品発表会などの式典に出席する
  • 業務命令によって得意先の開店パーティに出席する
  • 業務命令によって社員や取引先の通夜に出席する

たとえこれらの場で飲食が行われても、儀礼的または儀式的な意味合いが強く、飲食が主たる目的ではないので、労働時間(会社の指揮命令による業務遂行時間)になります

 

では、取引の交渉時における飲食時間はどう考えるとよいのでしょうか。もし、「つきあい」としての飲食しながらの懇談を目的とするものであれば、これを労基法上の業務遂行時間としてみることはできず、労働時間になりません。

けれど、飲食そのものの時間と、その前後における交渉時間を分離できるような場合は例外的に労働時間となります

たとえば、次のような場合です。

  • ホテルでの取引交渉中に、途中で夕食時間がきたので交渉をいったん中断して食事をし、さらにその後で交渉を継続する場合(食事の前後の時間は労働時間になる)

また、次のような場合も社会通念上、業務遂行時間と考えられるので労働時間となります。

  • 取引先の社長就任披露パーティに出席する
  • 研修会などでカリキュラムの中に組み込まれている飲食を伴う懇談の時間

ただし注意が必要なのは、2次会に参加した場合です。たとえ1次会が前述のような業務と認められるものであっても、2次会は「業務の延長とは考えられない性格のもの」とされているので、労働時間にはなりません。

 

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上記のように、接待を伴う飲食や宴会であっても、業務の緊急性と積極的特命の要件を充たしていることで労働時間となる場合もあります

 

もし「ドラマでは飲み会の時間も勤務時間に申請していたのに・・・(うちの会社では認めてもらえないので不満だ)」といった声が社員の間であがるのであれば、仕事上で飲食を伴う本来の目的、取引先との関係性などについて、ほんとうの意味で理解されていないのかもしれません。

 

「飲み会(飲食を伴う機会)だから仕方がない」と一言で片づけるのは簡単です。

ただ、社員の納得感につながりにくいので、仕事に対する不満を抱かせてしまいそうです。

一面にずらりと並べられた瓶ビール。黄色のラベル。

よって、その飲み会の目的が懇親なのか、それともあくまで仕事がメインで飲食は副次的なものなのか、などきちんと説明することが社員の納得感を得るポイントになります。

社会保険労務士高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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伸びる会社の就業規則作成コンサルティング。花びんに活けられた真っ赤なバラ。白の置時計。
社員を伸ばす人事制度構築コンサルティング。談笑するビジネススーツ姿の男女。

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