改正法の施行に伴って、この春に就業規則の見直しを行われる企業も多いでしょう。
就業規則を見直すにあたって、少なくとも一度は話題に上るのが出向社員への就業規則の適用についてです。
出向社員は、出向元企業の社員であると同時に、出向先の社員でもあります。ですから、出向社員には出向元と出向先のどちらの企業の就業規則が適用されるのか?とのご質問をよくいただきます。
ある具体的な事項について出向元と出向先企業の就業規則の規定が異なっている場合、どちらの規定が適用されるかによって、出向社員の労働条件に少なくないインパクトを与えることになるからです。
そこで今回は、出向元と出向先企業の就業規則の適用関係について確認していきましょう。
使用者の義務・責任を負うのはどっち?
労基法で定める労働条件の規制に違反した使用者(会社)は、責任を追及され罰則を科せられることになります。
ですからまずは、使用者の義務・責任を負うのは、出向元と出向先企業のどちらなのかを確認しておきましょう。
在籍出向の特徴は、出向社員は出向元企業との間に労働契約関係があるまま、出向先企業との部分的な労働契約関係を持つことです。
つまり、ふたつの労働契約関係が併存することになりますが、その労働契約は同一の内容ではありません。
そこで、行政解釈では次のように示されています。
- 在籍型出向の出向社員については、出向元と出向先の双方とそれぞれ労働契約関係がある。
- そのため、それぞれ労働契約関係がある範囲で労働基準法等の適用がある。
- つまり、出向元・出向先・出向社員の三者間の取決めによって決められた権限と責任に応じて、使用者としての労働基準法等における責任を負う。
したがって、適用される(労基法の)具体的な条項ごとに、出向元・出向先のどちらが使用者としての義務・責任を負うことになるのかを判断することになります。
適用される就業規則はどっち?
では本題の、出向社員に適用される就業規則についてです。
就業規則は、社員の労働条件を定める労働契約の内容となるものですから、重要な事項については、出向元企業と出向先企業と間の出向契約で定めておき、その内容を出向社員に示すことが望まれます。
もし、そういった決めごとがない場合には、出向元企業と出向先企業との間で、出向社員に対する就業規則の適用について協議することになります。
出向社員は、出向先企業における指揮命令、マネジメントに従って実際の労務提供を行います。
よって原則として、労務提供に関する部分については、出向先企業の就業規則が適用されます。具体的には、始業・終業時刻、労働時間、休日、休暇、安全衛生、災害補償などについてです。
これに対して、出向社員の労務提供を前提としない、労働契約上の地位に関するものについては、出向元企業の就業規則が適用されます。具体的には、定年、退職金、解雇などについてです。
その他の事項については、特に問題がなければ(明示の規定や合意がない場合など)、実際に労務提供を行っている出向先企業の就業規則が適用されるケースが多くみられます。
これまでをまとめると、次のようになります。
就業規則の適用 |
出向契約の内容もしくは出向元・出向企業の協議による。 それらがない場合には、実態を考慮して決定される。 |
労基法上の使用者 |
出向元・出向先企業間の出向契約によって分配されている、労働契約上の権利・義務に応じて判断される。 |
**
出向社員と出向元企業は、直接顔を会わせる機会が少なくなります。
本人が働く環境について何か悩みごとを抱えていたとしても、物理的な距離があるため、なかなか察しづらいこともあるでしょう。
お互いが顔を会わせない状況が続いているときこそ、会っているとき以上に密なコミュニケーションが必要です。
いまどき連絡事項は何かと便利なメールに頼りがちになりますが、必ず電話で直接声をかけるなど、気配りを心がけたいですよね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
■提供中のコンサルティング
■顧問契約・単発のご相談を承っています
■役に立つ無料コンテンツ配信中
■ブログの過去記事