とある企業では、関連グループの数社で合同プロジェクトを運営することになりました。
プロジェクト推進担当のAさんは関連会社に出向中です。ところがプロジェクトが進むにつれ、その規模は当初よりも大きなものになっていきました。
そこでプロジェクト全体を円滑に進めるため、中心的な役割を担当しているAさんを、さらに別の会社に出向させたほうがよいのではないか?といった話が持ち上がりました。
Aさんの出向先の人事部では、その話を聞いて大慌てです。
プロジェクトを運営する現場では、Aさんをさらに別会社へ出向させることが、ほぼ決定事項としてまさに今、動きだそうとしているとのことだったからです。
そこで今回は、「出向してきた社員を他社に再出向させることはできるのか?」について詳しくみていきたいと思います。
出向の命令権は誰にある?
出向とは、出向元企業で働く雇用関係のある社員を、出向元に在籍のまま出向先企業において、出向先の指揮命令によって出向先の仕事をさせることをいいます。
まとめると、この出向社員・出向元企業・出向先企業の三者間の雇用関係は、次のようになります。
- 出向社員は出向元企業との間の雇用関係を存続している
- 出向元企業との労働契約上の権利義務が、部分的に出向先企業に移転する
↓図示すると下記のようになります。
出向先企業が持つ権限は、あくまでもその出向社員を指揮監督して、労務提供をさせるのに必要な範囲に限られます。
労務の提供先(誰に対して労務を提供するのか)を決めることは、労働契約の最も基本的な事項ですから、出向元にとどまるものと考えられています。
よって、出向先が再出向命令を行うことは認められません。
スムーズに再出向させるには
前段でお伝えしたように、出向先が再出向命令を行うことは認められません。
あくまでも社員の明らかな同意を得たうえで、労働契約の根本となることに権限を持つ出向元が行わなければなりません。
とはいえ、出向先との関係を存続させたまま再出向となると、ただでさえ出向社員・出向元企業・出向先企業の三者間の雇用関係という複雑な状態が、さらにややこしく混乱するのは想像に難くないですよね。
そもそも数社間でのプロジェクトを円滑に進めるために再出向の話があったはずなのに、逆に混乱を招きかねないのでは、本来の望ましい状況とは言えません。
やはり、出向元が出向先との出向関係をいったん解消してから、再出向の命令を行うべきでしょう。
冒頭の例でいうと、出向社員Aさんの出向元がAさんに復帰命令を出し、出向元にいったんAさんを戻したうえで、あらためて再出向の企業へ通常の出向をさせる・・・ということです。
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多様な顧客の要望、時代の流れの速さに迅速に対応するため、プロジェクトを推進する形態もケースバイケースで行われていると思います。
プロジェクト形態の多様化に応じて、人材マネジメントを柔軟に考えることは、とても大切なことです。 けれどそれが行き過ぎてマネジメントがずさんになれば、トラブルが生じるおそれもあります。その収束にかえって労力がかかってしまうかもしれません。
成功に水を差すようなトラブルの芽は早めに摘み、適材適所の配置で人材を活かして、本業のプロジェクトの成功にエネルギーを注ぎたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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