社員の非行調査中に退職金を支払わないのはダメですか

資料の傍らノートパソコンの前で電卓を叩く女性社員の指先。

10月も最終週、秋が深まっていよいよ冷え込んできました。気がつけば、今年も残り2か月あまりとなりました。

 

企業の総務・人事担当者さんから、「通常業務に加えて、年内に退職する社員の退職金の計算、年末調整などが待っているので、12月に向けて気が重いです(笑)」といったお話を伺う季節でもあります。

その話の流れでよく伺う質問に、次のようなものがあります。

 

「もし、退職する社員に、実は陰で会社が不利益を被るようなワルさをしているらしい、みたいな噂が社内でたって、会社として事実確認に乗り出すとします。事実確認の調査をしているうちに、その社員の退職日がきた場合、退職金は支払わないといけないものですか?」

 

退職金は退職社員にとって「先立つもの」なので、その支払いをめぐる問題が発生することも少なくありません。

そこで今回は、社員の非行調査中に退職金の支払いを見合わせることはできるのか、また無用な問題発生を回避するため就業規則に明記しておくべきことについてみていきたいと思います。

退職金について就業規則で記載すべきこととは

赤いキーの電卓とボールペン。

冒頭のように、退職金は退職社員にとってインパクトのあるものなので、いたずらに誤解を生まないよう就業規則に取り決めを明記しておく必要があります。

 

まずは基本として、労基法で決められている規定しておくべき事項を確認しておきましょう。次のようになります。

(もちろん、退職金制度のない企業では記載する必要はありません。)

  1. 適用される社員の範囲
  2. 退職金の計算と支払いの方法
  3. 不支給、減額するときについて
  4. 支払いの形式
  5. 支払いの時期

1)~5)について、それぞれ内容を補足します。

1)について、もし退職金が正社員のみに支給するのであれば、その旨をはっきり就業規則に明記しておくことです。そうでなければパート社員、契約社員、嘱託社員などの人にも「退職金がもらえる」と余計な期待をさせてしまうことになりかねません。

 

2)について、ここでは退職金の額を計算するのに必要な要素、たとえば勤続年数や退職理由などについて書きます。また退職金を一時金で支払うのか、それとも年金で支払うのか、業績査定に応じたポイントで支払うのか、など支払いの方法を明記します。

 

3)について、一般的には次のように扱うことが妥当と考えられています。

懲戒解雇となった者、懲戒解雇に相当する事由があった者 不支給
諭旨解雇 大幅減額(20~40%の支給)
社員自身の責任による普通解雇 減額(50%程度の支給)
自己都合退職 60%~80%の支給
 定年、休職期間満了、余剰人員の整理、疾病などやむを得ない事由  100%支給

社員としての不適格、能力不足、勤務成績の悪さ、協調性の著しい欠如など、社員自身の責任による場合は、自己都合退職の場合とのバランスを考えるとそれよりも低い退職金支給率が相当と考えられるため

 

4)について、銀行口座への振込、小切手や郵便為替の交付など、退職金を支払う際の形式について書きます。

 

5)について、そもそも退職金制度を設けるかは法律で決められておらず、企業の全くの自由です。よって退職金をいつ支払うかについても企業の自由ですから、就業規則で支払時期を定めることになります。

社員の非行調査中に退職金の支払いを見合わせることはできるか

マーガレットの花とDREAMと書かれた鍵。

さて、就業規則に定めておくべき基本をチェックしたところでようやく本題です。

退職予定の社員の非行や不始末を調査する場合、もしも懲戒解雇とすべき重大な違反行為が発覚すれば不支給となりますから、会社として退職金をすぐには支払い難いケースもあることでしょう。

 

会社には、社員の退職時における不当な足止めをしないよう、金品の支払いや返還を迅速に行うことが労基法で義務付けられています(労基法第23条1項)。

けれど、同条の2項で賃金又は金品等に争いがある場合においては、「会社は異議のない部分を(退職する本人から請求が合った場合には)7日以内に支払い、返還しなければならない」旨が定められています。

 

つまり、退職金の算定などで争いがあるときには、その決着がつくまでは支払いを保留しても差し支えなく、社員の非行調査中に退職金の支払いを見合わせても構わないことになります。

ですから、社員側に退職金の算定への異議がある場合の取扱いや、社員の非行調査中など会社側に異議ある場合には支払いを見合わせる旨を就業規則に定めておくことが大切です。

 

最近は企業間のマーケットにおける競争がし烈なので、退職後の守秘義務、営業秘密の漏えいリスク管理の観点から、退職金(一時金)の支給日を退職後3か月にする企業もみられます。

また、「退職した社員から貸付金の返済が滞っていてヤキモキしている」といったお話を伺うこともあります。貸付金などの清算が未完了の場合も退職金の支払いを見合わせる旨を就業規則にきちんと定めておくことで、社員のいい加減な返済計画を正すこともできるでしょう。

 

就業規則にこのあたりのことをしっかり明記しておくことで、社員としても「立つ鳥跡を濁さず」で新たな道を踏み出すことができますし、また会社としてもすっきりとした気持ちで見送ることができますね。

社労士事務所Extension 代表・社会保険労務士 高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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