もうすぐ退職の社員に背信行為の疑いが発覚。退職金の支払いをしばらく保留にすると法的にダメなのだろうか?(ある会社の総務課長談)
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会社は背信行為の疑いについて、事実関係を確認する必要があります。
とはいえ背信行為の事実が判明してから、いったん支払った退職金を返還してもらうのは大変です。
退職金は退職社員にとって「先立つもの」なので、その支払いをめぐる問題が発生することは少なくありませんが、就業規則にあることを明記しておくことで、無用な問題を回避することができます。
そこで今回は、社員の非行調査中に退職金の支払いを留保することはできるのか、そして就業規則に明記しておくべきことについて詳しく確認していきたいと思います。
退職金について就業規則で記載すべきこととは
冒頭のように、退職金は退職後の生活に影響を大きく与えるものなので、いたずらに誤解を生まないよう就業規則に取り決めを明記しておく必要があります。
まずは基本として、労基法で決められている規定しておくべき事項を確認しておきましょう。次のようになります。
(もちろん、退職金制度のない企業では記載する必要はありません。)
- 適用される社員の範囲
- 退職金の計算と支払いの方法
- 不支給、減額するときについて
- 支払いの形式
- 支払いの時期
1)~5)について、それぞれ内容を補足します。
1)について、もし退職金が正社員のみに支給するのであれば、その旨をはっきり就業規則に明記しておくことです。そうでなければパート社員、契約社員、嘱託社員などの人にも「退職金がもらえる」と余計な期待をさせてしまうことになりかねません。
2)について、ここでは退職金の額を計算するのに必要な要素、たとえば勤続年数や退職理由などについて書きます。また退職金を一時金で支払うのか、それとも年金で支払うのか、業績査定に応じたポイントで支払うのか、など支払いの方法を明記します。
3)について、一般的には次のように扱うことが妥当と考えられています。
懲戒解雇となった者、懲戒解雇に相当する事由があった者 | 不支給 |
諭旨解雇 | 大幅減額(20~40%の支給) |
社員自身の責任による普通解雇 | 減額(50%程度の支給)※ |
自己都合退職 | 60%~80%の支給 |
定年、休職期間満了、余剰人員の整理、疾病などやむを得ない事由 | 100%支給 |
※社員としての不適格、能力不足、勤務成績の悪さ、協調性の著しい欠如など、社員自身の責任による場合は、自己都合退職の場合とのバランスを考えるとそれよりも低い退職金支給率が相当と考えられるため
4)について、銀行口座への振込、小切手や郵便為替の交付など、退職金を支払う際の形式について書きます。
5)について、そもそも退職金制度を設けるかは法律で決められておらず、企業の全くの自由です。よって退職金をいつ支払うかについても企業の自由ですから、就業規則で支払時期を定めることになります。
非行の調査中、退職金をどう取扱う?
さて、就業規則に定めておくべき基本をチェックしたところで本題です。退職予定の社員の非行や不始末を調査する場合、もしも懲戒解雇とすべき重大な違反行為が発覚すれば不支給となりますから、会社として退職金をすぐには支払い難いケースもあることでしょう。
会社には、社員の退職時における不当な足止めをしないよう、金品の支払いや返還を迅速に行うことが労基法で義務付けられています(労基法第23条1項)。
とはいえ、同条の2項では、賃金又は金品等に争いがある場合、「会社は異議のない部分を(退職する本人から請求が合った場合には)7日以内に支払い、返還しなければならない」旨が定められています。
つまり、退職金の算定などで会社と社員の間でもめごとがあるときには、その決着がつくまでは支払いを保留しても差し支えなく、社員の非行調査中に退職金の支払いを見合わせても構わないことになります。
したがって、社員側に退職金の算定への異議がある場合の取扱いや、社員の非行調査中など会社側に異議ある場合には支払いを見合わせる旨を就業規則に定めておくことが大切です。
最近は企業間のマーケットにおける競争がし烈なので、退職後の守秘義務、営業秘密の漏えいリスク管理の観点から、退職金(一時金)の支給日を退職後3か月にする企業もみられます。
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「退職した社員から貸付金の返済が滞っていてヤキモキしている」といったお話を伺うこともあります。
貸付金などの清算が未完了の場合も退職金の支払いを見合わせる旨を就業規則にきちんと定めておくことで、社員のいい加減な返済計画を正すこともできるでしょう。
就業規則にこのあたりのことをしっかり明記しておくことで、社員としても「立つ鳥跡を濁さず」で新たな道を踏み出すことができますし、また会社としてもすっきりとした気持ちで見送ることができますね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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