転職オファー殺到のエース社員、引き抜きへの会社の対応は?

分かれ道が示されたアスファルトとスニーカーを履いた足元。

世の中のIT化によって、新しい仕事の枠が広がってきています。

たとえば自社のECサイトなどWebサービスの企画、Webサービスの問い合わせに対応するコールセンターの立ち上げ、IT対応オフィスの提案などがあります。そのため業界を問わず求人ニーズがあり、転職市場も活性化しているようです。

 

会社にとって中核的な業務をこなし、みんなの中心的役割をつとめるエース社員は他社にとっても欲しい人材であることは間違いありません。そんな社員が同業他社から好条件の処遇や重要ポストなどの転職オファーをもって「引き抜かれる」ケースも起こりがちです。

 

そこで、「就業規則で引き抜きによる転職を禁止することはできないのか?」とのご相談をいただくこともあります。

 

今回は、引く手あまたなエース社員の引き抜き転職を会社は果たして禁止することができるのか、会社のとるべき対応についてみていきたいと思います。

引き抜き転職と職業選択の自由

白と黒のチェスボード。

はじめに結論からお伝えすると、冒頭のような好条件の転職オファーによる引き抜き転職を会社が禁止できるかというと、特別な場合(同業他社に転職する競業禁止にあたるケースなど)を除いて一般的にはNGとなります。

 

社員には憲法によって「職業選択の自由」が保障されているからです。雇用期間が定められている有期雇用契約など法律上の拘束がある場合は別として、社員の退職を禁止したり制限することは、この職業選択の自由に反することになります。

 

ただし、職業選択の自由が保障されているとはいえ、社員にしても退職時期への配慮は必要です。社員は、企業の内外を問わず会社の利益を不当に害してはならないという誠実義務を負っているからです。ですから担当業務の引継ぎについては、社員にも義務があるといえます。

 

このことについては、社員の退職が決まった場合であっても、業務の引継ぎをはじめ退職の日まで誠実に勤務する旨を就業規則へ規定することで、認識を社内で共有しておきたいですね。

社会規範を大きく外れた引き抜きは違法

社員が退職してから、元の職場の同僚などに「いっしょに仕事にしないか?」と誘いかけて退職させるケースも一般的に考えられます。

ただし、それが社会規範を大きく逸脱した場合には違法となります。

今までの判例をみるとわかりやすいので、その内容を以下に挙げることにします。

【ケース1・競業避止義務に違反】

  • 学習塾の社員2名が退職し、元の会社(学習塾)近くに新たに学習塾を開く。
  • 従業員、講師をもとの会社から多数引き抜く。
  • 元の会社での仕事上、手に入れた生徒カードから200人の生徒に入会を勧誘(125名入会)。
  • 就業規則で定める競業避止義務に違反するものとして、損害賠償責任が認められた。

【ケース2・雇用契約上の誠実義務に違反】

  • 英会話教室の運営、英語教材の販売を行う会社の元取締役営業本部長が競業会社に転職。
  • 転職に際しては、自分の配下にあった部長職、課長、係長はじめ二十数名を引き連れて実行。
  • 「会社に内緒で移籍の計画を立て、一斉に大量の社員を引き抜くことは、単なる転職の勧誘の域を超えて、社会的相当性を逸脱した極めて背信的な方法である」として、本件の行為に対して損害賠償が認められた。
  • また同時に、引き抜いた競業会社に対しても、「ライバル会社の社員に対し、単なる転職の勧誘を超えて社会的相当性を逸脱した方法で引き抜いた場合、その引き抜きによってライバル会社が受けた損害を賠償する責任がある」として、損害賠償が認められた。
分かれ道を示した道路標識。青空の下の車道。

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社員がやめたいというのに、会社がやめさせないということは職業選択の自由に反するのでできません。

 

けれど、会社にとって核となる業務を担い、活躍してきたエース社員が好条件の処遇に魅かれて転職するというのは、本人に「あなたは会社が必要とする大事な人材だ」ということが、本当の意味で伝わっていない可能性があります。

自ら能力を発揮したい、と考えている人は自分の力を本気で発揮できる環境を求めているからです。

 

転職の意思を突然打ち明けられて(←「突然」というところがポイント)、慌てて引き留めにかかるのではなくて、普段から今後のキャリアの方向性、どんなライフスタイル、人生を送りたいのかなど、コミュニケーションをとれる関係性を築いておくことが大切です。

 

それとともに、社員が働きたくなる職場環境をつくっていくことは、新しいアイデアを持っている社員、新しい事業を生み出せる社員、自分から動ける社員を抱えていくために、これからの時代会社にとって必須のテーマだと思います。

社労士事務所Extension 代表・社会保険労務士 高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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