「社員の健康が心配で、副業での勤務日数や労働時間をある程度制限したり、仕事内容や勤務先を届けてもらいたいのですが、法的に問題はありますか?」
社員は、基本的には、労働時間以外のプライベート時間を自由に使うことができます。そのため最近では、裁判例をみても副業自体を一方的に禁止することはできないとの考え方が主流です。
とはいえ、際限なく副業を認めてしまうと、疲労の蓄積によるミスの多発や(競合企業での副業による)自社の機密情報の漏えいが懸念されます。
そこで今回は、副業にまつわる懸念事項2点について、詳しく確認していきたいと思います。
- 副業に勤務日数や労働時間の制約を設けてもいいのか
- 副業の仕事内容などを会社に届け出てもらってもいいのか
副業への勤務日数・労働時間の制約
社員が本業と副業で2つの企業と契約して、かけもちで仕事する場合には、労働時間マネジメントに注意する必要があります。
この場合の労働時間の取扱いについては、両社での労働時間を通算することになります。ここで問題となるのは、どちらの会社で時間外労働の残業代(割増賃金)を支払わなければいけないのか、ということです。
この点について、労働時間は時の経過に沿って計算することになるので、時間的に後になった会社が時間外労働の残業代を負担することになります。後で契約する会社は、その働き手が他の会社で(自分の会社に来る前に)どれだけ働くかを確認しなければならない、といえます。
ただし、たとえばA社で6時間、あとからB社で2時間働く人の場合、A社があとからB社で2時間働くことを知りながら労働時間を延長するときは、時間外労働(法定労働時間を超える状態)を発生させるA社が残業代を負担するべき、と考えるのが妥当とされています。
このように、副業を認める場合には自社の労働時間だけでなく、副業先での労働時間について、社員の自己申告によって把握しておくことも考えておかなくてはなりません。
冒頭のように、副業での勤務日数や労働時間にある一定の制限を設けようとするのは、社員が過度の長時間労働を行って、疲れ果てて健康を害し、本業に差し障りが出ないようにするためです。
よって、2社かけもちによる労働時間マネジメントを含め、勤務日数や労働時間に合理的な範囲内で制約を設けることは許容されるものと考えられます。
副業の仕事内容などに関する届出
冒頭でも触れましたが、兼業には「営業秘密の流出」「本人の過労」「会社信用の失墜」といったリスクが、会社と社員の双方にあります。
裁判例をみても、
- 社員の本業での誠実な労務提供に支障が出るか?
- 副業の内容によって企業の経営秩序が乱れるか?
- 企業の対外的な信用や対面が傷つけられるか?
といった観点から、副業の制約やこれに違反した場合の懲戒処分の有効性が判断されています。
よって、副業によって企業の利益が侵されないかを把握するために、副業の勤務先、仕事内容、勤務日、勤務時間など、人材マネジメントにおいて必要な事項の届出を社員に義務づけることは問題ないと考えられます。
ただし、合理的な範囲を超えて、副業を行う理由などについて根掘り葉掘り、しつこい態度で聞いたりすることは避けるべきです。
とるべき実務的な対応は?
以上のように、会社が副業を認める場合、「本業への支障がないか」「企業秘密の漏洩リスクはないか」「むやみにオーバーワークを招くものとなっていないか」などを確認する目的で、社員へ副業に関する届出を求めることは人材マネジメントにおいて必要な対応といえます。
副業を認める場合であっても、本業の会社は、(副業を行う)社員に対する安全配慮義務を負っています。
したがって、副業によるオーバーワークで社員の健康や安全が損なわれることがないかを確認するために、副業を始めるときだけでなく、その後も定期的に副業の状況について届出を求めるという運用も考えられるでしょう。
社員と会社の双方が納得感を持って、副業を進めることができるよう、届出をコミュニケーション・ツールのひとつに位置付けたいですね。
また、社員に副業の届出を求めることは、決して社員を会社にむやみに縛りつけることを目的にしているのではなく、会社には社員の健康状態を確保する義務があること、仕事内容等で無用な誤解を招かないようにするためであることなどを、社員にしっかり伝えたいところです。
また社員にとっても、副業によって本業に支障をきたすことがないよう、自分の健康状態はじめ、本業と副業のボリュームの割合や進捗をしっかりセルフマネジメントすることが求められるでしょう。
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働き方改革の流れで、テレワークやダブルワーク、在宅ワークなど、従来では想像さえつかなかった新しい働き方が提案されています。
社員の成長を促し、会社を伸ばすためにこれらの働き方を運用していくには、「柔軟性や自由度を活かしてより大きな成果を得る」「社員のスキルを100%発揮できる機会にする」との意識を強く持つことが、会社と社員ともに必要だと思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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