昔は、女性社員が始業前に簡単な掃除やお茶の準備をしてくれていた。「男女差別だ」との声があって、その習慣もなくなったが、いまや机には書類があふれて棚も散らかり放題・・・。また女性社員にお願いしたいけどダメかなあ・・・どうすればいいの?(゚Д゚;)
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始業前に女性社員がみんなのデスクの上を水拭きして、給茶機をセットしてお茶の準備をする・・・ひと昔前では見慣れた朝の風景かもしれまません。とはいえ「女性社員だからやる仕事」というのでは、ハラスメントやコンプライアンスの点が気にかかります。
そこで今回は、ハラスメントやコンプライアンスの点から押さえておくべき下記の2点について、詳しく確認していきたいと思います。
- 仕事前の机ふき・湯茶準備でハラスメントについて気をつけるべき点は?
- その時間は労働時間としてカウントするか?
ハラスメントになるか気をつけるべき点は
まず、ハラスメントの視点からみていきましょう。もし、女性社員にのみ仕事前の机ふき・湯茶準備を強要するのであれば、業務配分における女性社員への差別的取り扱いとして、男女均等法違反になります。
また、女性社員だけに仕事前の机ふき・湯茶準備を強要する行為は、ジェンダー・ハラスメントにあたるため、人材マネジメント上注意が必要です。
ジェンダー・ハラスメントとは、性別の役割分担意識に基づく差別的嫌がらせのことです。女性だけでなく男性にとっても問題となります。たとえば、女性をスキルに見合わない補助的業務に従事させる、男性には長時間労働や無理な配置転換を強いる、といった対応などがこれにあたります。
男女の性別的役割が固定的になって、過度に強調されると、オフィスでのセクハラが発生する原因・背景になりかねません。また、たとえば「男性にしかできない仕事」として思い込んでいると、人材争奪戦が繰り広げられるなか、採用募集の間口を狭めることにもなります。仕事のやり方を見直して、無駄な作業をなくすなどの生産性をあげるチャンスを逸してしまうおそれもあります。
業務の効率化という視点からも、ジェンダー・ハラスメントの対策を講じることは、これからの時代のテーマだといえるでしょう。
労働時間としてカウントするか
では次にコンプライアンス上の問題として、仕事前の机ふき・湯茶準備が労働時間にカウントされるかどうかをみていきましょう。これは、それが社員本人による自発的なものなのか、それとも会社による強制による(黙示の指示によるものを含む)ものなのかが判断のポイントとなります。
これらの時間が労働時間としてカウントされるのは、社員に命令して始業前に義務的に行わせている場合です。責任と強制力を伴う当番制であり、会社がその実施の事実を知りながら黙認しているときも、黙示の業務命令があったとして労働時間としてカウントされます。
一方、デスク回りや自分の仕事の持ち場は自分で片付けることになっていて、自発的に掃除を行う場合は労働時間にあたりません。お茶についても、社員が各自自由に飲むことになっていて、自分が入れるついでに同僚やチームメンバーの分までお茶を入れて配るのは、好意によるサービスなので労務の提供とはいえず労働時間となりません。
まとめると、会社の指揮命令によるものというより、オフィスで気持ち良く仕事ができるように人間関係上の好意的な行動や、職場環境を整えるために自主的に行われるものは、たとえ業務上の必要があったとしても、明らかな自由意思によるのであれば労働時間としてカウントされません。
なお気をつけておきたいのは、早朝の掃除やお茶の準備に対して会社の業務命令ではなく、社員本人の自発的な活動ということで残業代の対象としないのに、人事評価の対象にはしているケースです。
いつもよくやってくれているからこれらの活動によい評価をつけてあげたい、との思いがあるにせよ、早朝の掃除やお茶の準備などの「自発的な活動」を評価の対象としてみると、それらを「職務行動」と認めたことになります。
職務行動とは、会社の業務命令に基づく仕事を果たす行為のことです。つまり残業代の対象として認めることになるので、矛盾が生じてしまいます。人材マネジメントにおいて社員のモチベーションにも関わってきますから、整合性がとれているか確認しておきたいところですね。
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仕事前の机ふき・湯茶準備にまつわるハラスメントやコンプライアンス上の問題は、以上のようになります。とはいえ、やはり仕事をするうえで、散らかった環境よりもきちんと整えられた環境のほう気持ちがいいのは事実です。
そこで大切なのは、「(いい環境を得るために)誰かに特別な負担を強いる」という考えを捨てることだと思います。誰かに何とかしてもらおうと依存しなくても、自分の力でも何とかできる、と気づくことです。
ごちゃごちゃしたデスク回りを片付けて、ウェットティシュでさっと埃を拭き取るだけでも、スッキリした気分で仕事に向き合えます。
おいしいお茶でも入れて一息つけば、やる気もむくむく回復します。気持ちよく仕事のいいアイデアも浮かびやすくなります。
一人ひとりが自分の仕事の持ち場をスッキリと気持ちの良い状態に保つことで、全体として風通しの良い快適なオフィス環境を維持できますね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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