仕事が終わってからの健康診断は残業代の対象?

お皿に色とりどりの果物が並べられている。ハート形にくり抜かれたすいか、ラズベリー、ブルーベリー、ミントの葉。

ここ一か月の間に地震や台風、局地的な豪雨が相次いで発生しました。雨が上がると今度は照り付けるような太陽の日差しで猛暑の日々・・・。会社としては、社員の健康管理がとても気にかかるところではないでしょうか。

 

社員の健康維持のために、会社には一定の健康診断を行う法律上の義務があります。この健康診断について、

 

「就業時間中に健康診断を受けることができる社員もいるのですが、業務の都合でどうしても時間外に受けたいという社員がいます。これは時間外労働として残業代の対象となるのでしょうか?残業代が出るなら、就業時間中は仕事をして、時間外に健康診断を受けたいと言い出す社員が出てきそうで、悩みます・・・」

 

とのご相談をいただくことがあります。

労働時間とは、社員が会社の指揮命令下のもとで仕事を行う、拘束された時間のこと。

とすれば健康診断は、残業代の対象になるかどうかの前に、そもそも労働時間としてカウントされるもの??との疑問も浮かんできませんか。

そこで今回は、健康診断義務にかかる法的な性質を踏まえながら、このあたりについて詳しくみていきたいと思います。

健康診断は会社と社員ともに責務がある

ビールの入ったジョッキグラスとカクテルの入ったグラスが並んでいる。

冒頭のとおり、会社には社員に健康診断を受けさせる義務がありますが、社員にも自分自身で健康状態を保つよう、自己保健義務による受診義務があります。

 

「使用者に対する労働者への健康診断実施義務(安衛法)」と「労働者の協力義務ないし受診義務(安衛法)」の規定が法律上の根拠となります。健康診断は会社と社員の両方に義務づけられたもの、ということができます。

 

健康診断を受けたくない、と主張する社員の首根っこをつかんで、医師のもとへ強制的に連れていくのは現実的ではありませんよね。

受診の対象である社員の協力がないと、会社としてはどうしようもありません。

そこで、社員に対しても健康診断を受けるべき義務が法律で課されています。

 

近年では過重労働に対する会社の責任が厳しく問われる判例がみられますが、会社はあらゆる場面において、すべての危険や健康被害から社員を守るべきなのかというとそうではありません。たとえば、毎晩相当な量のお酒を飲んで夜更かしをしていた、など私生活上の問題や、病院での診療を途中で自らやめてしまった、など社員が当然行うべき注意義務を怠っていたような場合には、会社は社員を守りようがありません。

 

そこで就業規則において、「社員は日頃から健康の保持増進に努めること」「会社が実施する健康診断は関らず受診すること」「体調不良を感じた時には進んで医師の診療を受けること」など、自己保健義務を規定することによって社員の自覚を促すことは、健康管理への意識を高めてもらう方法のひとつだと思います。

健康診断は労働時間にカウントされるのか

忙しそうにパソコンの画面を食い入るように眺める女性社員

健康診断は会社と社員の両方に義務づけられたものであるので、会社は社員に健康診断を受けさせなければならないし、社員にもそれを受ける義務があります。

 

会社が社員に健康診断の受診を命じたとき、社員には受診義務があるので正当な理由がない限りこれを拒否することができません。

時間外に受けなさい、との会社の受診命令があったときも、社員は正当な理由がないと拒否できませんし、自分の健康保持のために受診しなければなりません。

 

ただしその時間は、社員による労務提供が行われたとはいえませんし、会社の指揮命令下にある拘束時間ともいえません。

会社と社員双方の責務として、協同して健康診断にあたることになるので、所定労働時間中に健康診断が実施された場合はそのまま労働時間となり、終業時刻後の所定時間外に実際された場合には、そのまま労働時間にならないという、折半的な処理となります。

 

行政通達においても、健康診断は会社と社員が協力して実施されるものとして、

  • 健康診断は業務遂行と関連して行われるものではない
  • よって受診時間は当然会社が負担するものではなく、会社と社員で話し合って決めるもの
  • ただし社員の健康は仕事に欠かせないものなので、受診時間の賃金を会社が支払うのが望ましい

とされています。

そのため、健康診断を労働時間として取り扱う場合でも、労基法で定めるような拘束されて労働する時間ではないと考えられています。その対価を通常の賃金とは関係なく(1週40時間の枠外で)、たとえば健診1回〇〇〇円という形で一律に支払うことも差し支えありません。

その他の健康診断はどうなる?

ノートパソコンのキーボードを叩く白衣を着た医師の指先

前段まではいわゆる一般健康診断についてであり、必ずしも労働時間になるとは限らないということでした。

 

ただし、特定の有害な業務に従事する社員に対して行われる健康診断、いわゆる特殊健康診断は、労働時間にカウントされると考えられています。社員の健康を確保し、業務を適正に遂行するため当然実施されなければならないものだからです。

よって、時間外に実施された特殊健診も、当然残業代(割増賃金)の支払い対象となります。

 

なお、会社側の健康診断義務については例外があります。

それは、会社の指定する医師の診断を受けることを社員が希望しない場合です。この場合には、会社の健康診断義務は免除され、その社員には自分で自分の希望する医師の健康診断を受けて、その結果の証明書類を会社へ提出しなければならない義務が課されることになります。

 

自分が希望する医師のところへ行って健康診断を受ける時間は、医師選択の自由権を行使するものであって、会社の指揮命令下に置かれた拘束時間ではないので、労働時間にカウントされません。残業代(割増賃金)の支払い対象ともなりません。

 

**

「健康診断を受ける時間の分だけ仕事が滞ってしまう(だから受けたくない)・・・」という社員も、もしかするといるかもしれませんね。

けれど健康診断の結果、万が一継続的な治療を必要とすることが発覚したなら、同じ職場の仲間に協力を求める必要が出てくるでしょうし、会社としてもフォロー体制をマネジメントしていかなければなりません。

 

本当の意味で滞りなくスムーズに仕事を進めていくためにも、健康診断の受診をはじめ、健康管理に対する意識を会社と社員の双方で高めていきたいですね。

社労士事務所Extension 代表・社会保険労務士 高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

≫詳しいプロフィールはこちらから

伸びる会社の就業規則作成コンサルティング。ノートパソコン、スマートフォン、ボールペン2本、ピンク色の付箋
社員を伸ばす人事制度構築コンサルティング。パソコンに集中して打ち込む社員。
無料コンテンツ。デスク上にコーヒーカップと文房具。
社労士事務所Extension 代表・社会保険労務士 高島あゆみへのご依頼はこちらから
「トップページにもどる」ボタン