研修・セミナーが労働時間になるとき、ならないとき

デスクの上に、花束、メモ帳とペン、ペーパーバック、眼鏡、ワッフルが添えられたカップ&ソーサ―が置かれている。

「これから社員には、スキルアップのためにうちの会社内部で企画したものだけではなくて、外部の機関が実施しているセミナーやビジネス・スクールにどんどん参加してもらおうと思っています。ただ、そのセミナー受講中は労働時間になるのですか、ならないのですか?」

 

今いる社員に能力をのびのび発揮してもらうため、セミナーや研修、講習の受講を企画・検討されることもあると思います。

 

そこで、社員が参加する研修や講習は、どんな内容のものでも労働時間になるのか、ならないのか、その判断のポイントを知りたい、との質問をよくいただきます。

 

また、終業時間後に実施されるセミナーであれば、残業代の支払いの有無など勤怠管理で頭を悩ませる、との声をお聞きすることもあります。

労働時間になるかどうか、判断のポイントは大きく分けて2つあります。

  • セミナーの内容(担当業務に関連するものなのか?)
  • 業務命令か否か(自由任意参加なのか?)

今回はこれらを詳しくみていきましょう。

研修・セミナーが労働時間になるとき

ピンク色の電卓とメモ帳

業務命令で研修・セミナーへの参加が命じられている場合は、労働時間になることは明らかで、これはすんなり頷けますよね。

けれど明白な業務命令によらない場合でも、次のような内容の研修・セミナーは労働時間になります。 

  1. 社員の仕事内容そのものと関係がある、もしくはかなり密接な関連性があるもの
  2. 職場環境の維持向上に関するもの(安全衛生に関するものなど)
  3. 法令で会社の義務とされているもの 

 

では、具体的にみていきましょう。

 

まず1)について、仕事内容そのものに関する研修・セミナーは、特に業務命令がなくても、それに参加することも職務遂行のうちといえます。会社が社内で企画する研修・セミナーであっても、外部機関が実施するものであってもそれは同じです。

たとえ、いちいち会社から「受講しなさい」との業務命令がなくても、仕事内容そのものに関する研修・セミナーを受講することは、担当業務の範囲として考えられるので、黙示の参加命令として労働時間となります。

仕事内容そのものとはいえないけれど、担当業務と関連性の深い研修・セミナーについても、これに準じた取扱いとなります。

 

次に2)について、会社には、職場で働くたくさんの社員をまとめ、マネジメントしていくために企業秩序を維持し、職場環境をより良くしていく義務があります。そのためこれらを目的とする研修・セミナーに社員が参加することは、労働契約の本質にかなっているので、労働時間にあたります。

なかでも職場の安全衛生を確立するには、職場環境を維持するうえでとても重要であるため、労働安全衛生法に定められる安全衛生教育は、原則として労働時間になると解釈されています。会社組織の一員として自分をはじめ同僚たちの安全や健康を守ることは、仕事をするうえで大前提となることだからです。

 

3)について、先の労働安全衛生法による安全衛生教育の場合もそうですが、その他の法令に基づいて会社の義務となっている教育訓練は、一般的に労働時間となります。たとえば消防法に基づく消火、通報、避難訓練などがこれにあります。

研修・セミナーが労働時間にならないとき

メモ帳と万年筆。カスミソウ。

研修・セミナーの参加について、社員のまったく自由に任せられている場合は、会社の指示によらない、自由参加のものなので労働時間とはなりません。

ただし、自由参加とうたいながらもそれに出席しないことで何らかの不利益(欠勤・早退扱いとなる、人事評価でマイナスの影響があるなど)が定められている場合は、実質的には強制参加といえるので労働時間となります。

 

ですから会社が時間外や休日にこのような自由参加の研修・セミナーを実施したとしても、それはあくまでも、自己啓発のための研修・セミナーということになります。業務命令ではないので、時間外労働や休日労働にはあたらず、割増賃金(残業代)の対象ともなりません。

 

たとえ会社が受講料の負担や教材・資料の提供など、研修・セミナーの受講サポートを行っていたとしても、参加すること自体が自由意思に任されているのであれば、それは会社が福利厚生面での支援を行っているということであって、会社の指揮命令下に置いたことにはならず、労働時間にはあたりません。

 

以上のことを前提として、前段について、個別具体的にみておきましょう。

まず1)の場合、研修・セミナーの内容が担当業務そのものだとしても、たとえば「外部機関の研修に参加するときには事前に所属長の承認を得ること」とされているのにも関わらず、それに違反して参加したようなときには、事後に会社がその行為を「業務命令による職務遂行」と追認しない限り、労働時間にはなりません。職務命令から逸脱した行為と考えられるからです。

また、「担当の仕事内容にかなり密接な関連性があるもの」との認識で社員が参加した研修・セミナーが、客観的にみてみると業務との関連性が密接ではなかったとき、社員がそう誤解するのも無理もないという事情があったり、会社がその参加を事前に把握していたような場合でない限り、労働時間にはなりません。

 

2)の場合、「自由参加であること」が明示されているか、慣例的に自由参加の扱いになっているときは労働時間となりません。ですから会社が時間外や休日に職場環境の維持向上に関する研修・セミナーを実施するときは、時間外労働として扱わないのであれば、その研修・セミナー開催の趣旨を考えると、自由任意参加である旨をはっきりと明示しておく必要があるでしょう。

 

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冒頭にもあるように、そもそも会社が研修・セミナーを企画するのは、社員のスキルアップを考えてのことです。せっかくの機会にも関わらず、「労働時間になる、ならない」といったことで無用な誤解が生まれ、社員のモチベーションを落としてしまうことになればとても残念ですよね。研修・セミナー実施の趣旨を、しっかりとあらかじめ社員に説明しておくことがポイントになるでしょう。

 

また、どんな内容の研修・セミナーを受講すると、能力を伸展させることができ、仕事に役立てることができるのかを話し合えるような関係性を、上司と部下の間で普段から築いておくことが大切だと思います。

社労士事務所Extension 代表・社会保険労務士 高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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