人事制度(人事評価と賃金制度)を刷新したいが、うまく移行できるか心配だ。給料が上がる人はうれしいかもしれないが、反対に下がる人に対してどう対応すればいいのか。社員は納得してくれるだろうか。
クリアしなければならない問題を考えると、うちの会社が制度を新しくするのは無理な話なのだろうか?
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人が生活していくためにお金は必ず必要なので、賃金は社員のやる気に少なくない影響を与えます。賃金は人材マネジメントの中核となるものであり、どのように扱うかで会社の成長に大きく関わると言えます。
そこで今回は、新しい賃金制度へ移行するにあたって社員の理解を得るために必要な、下記の手順を詳しく確認していきたいと思います。
- 新しい資格等級へ移行する
- 新しい給料へ移行する
- 法律的な条件をクリアする
新しい資格等級へ移行する
まず、現状(旧制度)の資格等級を、新しい制度のもとで置き直すプロセスについて確認していきましょう。
その方針として、次のように2パターンあります。
- 旧制度の等級をそのまま新制度の等級にスライドさせる
- 新制度の等級へ新しく格付けする
1)の場合、旧制度と新制度では評価基準が違うかもしれませんが、今までの価値観をいったん尊重して、4等級の人ならそのまま新制度の4等級へスライドさせます。
新制度を運用していくなかで、新制度での評価基準に照らし合わせて処遇していく、という考え方です。新制度導入による激変は避けられると思いますが、新制度の評価基準を浸透させるには時間がかかるかもしれません。
2)の場合、旧制度の等級は全く考慮せず、新制度の評価基準によって新しく格付けを行います。旧制度では3等級の人が、新制度の評価基準によると4等級に格付けされることもありうるということです。新制度の効果は早く出ると思われますが、今までの評価基準と全く異なる価値観によって処遇されることになるので、ついていけないと感じる社員が出てくるかもしれません。
1)旧制度の等級を新制度の等級へスライド | 2)新制度の等級へ新しく格付け | |
メリット | 今までの価値観をいったん尊重することで、新制度による社員の動揺を緩和できる。 | 旧制度の評価基準によらず、新しく格付けするため、新制度の効果が早く出る。 |
デメリット | 新制度による評価基準の浸透に、時間がかかる。 | 今までと異なる評価基準や価値観に、ついていけない社員が出るおそれも。 |
そこで現実的には、1)と2)の間をとって処遇することが多いと思います。つまり、新制度での処遇で問題となる人だけ、新制度の評価基準に近づけて修正を図るという考え方をとることになります。
たとえば新制度での4等級は、メンバーをまとめるマネジャーの職責を負うことになっているけれど、現状の4等級の人が実際にはマネジャーの役割を担っていない場合、新制度においては3等級に処遇することになります。
どの方針をとるにしても、社員に納得してもらえるよう、しっかり丁寧に説明する努力が必要です。
新しい給料へ移行する
では次に、新制度への給料の移行手順を確認していきましょう。
給料が上がる場合はいいのですが、問題は下がる場合です。
給料は社員の生活の源泉なので、大幅に下がるようなことは避けるべきです。頑張って取り戻そう!と発奮するどころか、腰を落ち着けて仕事に取り組むことが難しくなるケースの方が多いと思います。
そこでまずは、新制度へ移行する初年度では給料ダウンを避けます。
新制度の評価基準で決定された本来の給料額と、旧制度のものとの差額を、「調整手当」という名目で支給します。
そして次年度以降のステップとして、その調整手当を3~5年を目安に徐々に減額していきます。
仮に調整手当が5万円として、新制度の初年度はそのまま5万円を支給、2年目は3万円、3年目は1万円、4年目は調整手当の支給なし、とするようなイメージです。実際には、新制度での評価基準による昇給との差し引き分が減額となります。
最近では、新制度における評価基準を早く社内に浸透させるために、調整手当の支給期間は短縮される傾向にあるようです。
法律的な条件をクリアする
では、新しい資格等級による格付けに伴って降格になる(たとえば旧制度では4等級であった人が新制度では3等級に格付けされる)場合、法律的にはOKなのでしょうか。確認していきましょう。
その会社の賃金制度として、人事評価による資格等級と賃金が連動している場合、降格による賃金の引き下げは適法であると解釈されています。
この制度において社員の賃金は、仕事を遂行する上での役割、行動、スキル、業績目標への貢献度などに応じて格付けされた資格等級によって決定されます。
等級が変更されれば、賃金額も変更されることは当然となります。
判例では、このような制度における降給が許されるのは、「就業規則などの労働契約に降給が規定されていて、降給が決定される過程が合理的であり、その過程が社員に示されていてその言い分を聞くなどの公正な手続きがあること」と示されています。
ただし、降格となっても仕事内容が従前のままで変化がない場合には、実質的には賃金の切り下げとなり、原則許されません。
また、仕事内容の変更に伴って賃金額を変更するには、就業規則の定めなど根拠が必要です。
仕事内容の変更だけでは賃金の減額の根拠になりません。
これらから、就業規則への規定をはじめ、会社には社員への説明責任があることがよくわかります。
新制度をスムーズに運用していくために、社員の理解を得ることはとても大切です。とはいえ社員の感情を慮りすぎて、新制度への移行をためらうと改革のスピードは遅くなります。
新制度へ移行するのは、変化の激しい時代でも社員と協力して、自社が発展する歩みを止めないためです。
その目的を見失わずに、とるべき現実的な対応を考えていきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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