自社に合った賃金制度をつくりたい、と経営者の方からよくお伺いします。とは言っても、今の制度にどんな問題や課題があるのか具体的にはわからない。だからどういった制度が自社には合って、合わないのか、何を基準に見極めるといいのか・・・などと思案されていることも多いようです。
そこでまずは、自社の賃金実態がどうなっているかを把握することから始めてみましょう。月給、賞与、年収総額について、年齢や役職、人事評価などの観点から詳しくみてみると、どんなことがネックとなっているのか、検討しなければならない問題や課題に気付くことができます。
では、現状の賃金実態をつかむための分析ポイントを、詳しくみていきましょう。ポイントは大きく分けて次の3つです。
- 世間水準と比較してみる
- 人事評価や役職に見合っているか確認する
- モデル賃金を設定してみる
これらを確認するプロセスで、自社に合った賃金制度のカタチが見えてきます。では、さっそく確認していきましょう。
世間水準と比較してみる
自社の賃金を世間水準と比較することは、社員のやる気を引き出す賃金制度を考えるには、とても重要なステップです。
世間の賃金に対する考え方を読み解くこともできるからです。
「世間水準」に関するデータは様々なものがありますが、「中小企業(規模)」「ローカル(地域性)」といったキーワードを中心にすると、以下を参考にしてみてはいかがでしょうか。
〇賃金構造基本統計調査(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
〇都道府県労働局の賃金統計(URLは大阪労働局のもの)
http://osaka-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/jirei_toukei/saitei_chingin.html
〇都道府県の賃金統計(URLは大阪府「毎月勤労統計調査」)
http://www.pref.osaka.lg.jp/toukei/chousa/maikin.html
これらのデータから、世間水準と自社の差を確認します。すると、単に比較して賃金が高いのか低いのか、ということだけではなく、良い人材を獲得して定着させるには、賃金設定を戦略的に考えなければならないことがわかります。たとえば次のようなことです。
- 30歳未満の人材を獲得するには、世間水準よりも少し高めに設定して競争力を上げないといけない
- 当社の30歳前後では世間水準よりもやや低いので、賃金設定、ポジション、仕事内容などいずれかでインセンティブを与えなければ、離職させてしまう可能性がある
- 当社の45歳以上は世間水準よりも高くなっているので、会社への貢献度に見合ったものなのかを検討する必要がある
このように世間水準と比較することで、今の制度で見直すべき点がわかります。
人事評価や役職に見合っているか確認する
では次に、役職別に人事評価の点数と年収を見比べてバランスがとれているかを確認してみましょう。
たとえば、良い評価の人よりも悪い評価の人の方が、年収が高くなっているということはないでしょうか?
人事評価よりも昇給に重きを置いて年収格差をつけているケースに、このような逆転現象が見られます。
この場合、月給だけでなく賞与においても、たとえ評価が悪かったとしても「上の等級の人が下の等級の人よりも、賞与が多くないとおかしい」という考え方になりがちだからです。
評価が悪い人の年収を高くしてあげよう、などといった意図はなかったはずですが、人事評価の結果を後手に回し続けた結果、このような現象が発生することになります。
人事評価を実施する目的は、会社への貢献を果たし、良い評価となった人に対して報酬で報いるためであったはずです。そもそもの目的に立ち返って、賃金制度のあり方を考えていく必要があることがわかります。
モデル賃金を設定してみる
前段までは実際の賃金について分析しましたが、ここではモデル賃金を設定してみることにしましょう。
まず、次のような3パターンのモデルを考えるとわかりやすいと思います。
- 最も良い評価から最短スピードで昇格するモデル
- 普通の評価と勤続年数で昇格するモデル
- 最も悪い評価から最も遅いスピードで昇格するモデル
2)が標準モデルとなります。新卒者が標準的な評価で、標準的な年齢で昇格した場合の月給の推移を表したものです。年齢を軸にすることで、全体的なバランスをチェックできます(必ずしも年功の要素を大切にしましょう、ということではありません)。
たとえば年功色を払しょくして、人事評価による賃金の決定に格差をつけたい場合は、2)を中心として、各モデルに開きをつけて月給の上がり方(賃金設計)を考えます。
もっと意欲的に仕事に取り組んでもらいたい、若いうちに経験をどんどん積んでほしい、といった問題意識が強い場合にも、各モデルの格差を広げる方向性で検討することが多いようです。
成果主義、年功主義のどちらにも偏り過ぎることなく、社員のやる気を引き出すことを第一にして、会社のスタンスを決めたいところです。
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以上のような観点から、自社の賃金実態を把握することで、
「評価の高い人がそれにふさわしい賃金となっていない」
「他の会社と比べて、うちの採用競争力は弱いかもしれない」
「早く昇格した人と普通の人の差があまりないから、社員のやる気が出ないのか?」
といった現状の課題が明らかになります。
人材マネジメントにおいても賃金は核となるものなので、課題にしっかりと向き合って、社員のモチベーションアップにつなげていきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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