労働時間マネジメントは上司の責任

パソコンのキーボード前に電卓やノートなどビジネスツールが並んでいる。観葉植物のグリーンが癒し。

新入社員の過労自殺に端を発した電通の違法残業事件は、2017年10月6日、罰金50万円の有罪判決となりました。判決では、長時間労働が常態化していたにも関わらず、抜本的な対策を講じないで、労働時間の削減を現場まかせにしていたことが指摘されています。

「残業管理は上司の責任」との見方が明確に示されたと言うこともできるでしょう。

 

近年は、上司の指示に従わずに残業していた社員への会社の対応義務が問われる裁判例もみられます。ただしそうは言っても、

「作業に時間がかかるのは本人の力不足で、どこまで対応しなければいけないのか」

「残業しているのは本人の勝手ではないのか」

「毎晩ダラダラやっているようだが、何をやっているのかわからない」

 

と頭を抱えるマネジャーの方も多いかもしれません。

そこで今回は、社員(部下)の残業にかかる上司の責任について、詳しくみていきましょう。

そもそも法律では残業が禁止されている

マウスを操作しながらパソコン作業に集中する社員の手。

労働基準法では、労働時間と休日について週40時間労働制、週1回または4週4日の休日の付与が規定されています。時間外労働や休日労働は本来禁じられており、その違反については刑事罰が科せられることになっています。

 

けれど実際の仕事の現場では、取引先や顧客からの突発的なオーダー、注文によって、週40時間労働・週休制の原則ではどうしても対処しきれないことが発生します。

そこで、働く社員の健康を害さない範囲内で、時間外労働・休日労働が一定の要件を満たした場合、適法な労働として認められることになっています。

 

一定の要件とは

  1. 36協定を結ぶ場合
  2. 非常時災害などで監督署から許可を受けた場合

です。

 

通常は1)の36協定の締結によることになります。36協定の法的効力は、一般的に禁止されている時間外・休日労働を、その事業場の社員の過半数による労働組合、もしくは社員の過半数を代表する者との書面による協定をして、労働基準督署へ届け出ることで、適法化するものです。つまり「1日8時間以上働かせてはならない」という規定を36協定によって、たとえば「1日12時間以上働かせてはならない」というように修正させる効果があるということです。

 

36協定の上限時間については、限度基準の告示があります。けれどこの限度基準は行政指導の根拠とはなりますが、罰則がないため強制力はなく、この基準を超えた36協定が無効になるものではありません。

(そのためこの時間外限度基準告示を法律に格上げし、罰則を設けるなどの労働関係法改正案が9月末に召集される臨時国会へ提出される予定でしたが、9月28日に衆議院が解散されたことによって廃案になりました。)

 

だからといって際限なく残業をさせていいわけでは決してなく、社員の健康が損なわれると会社の責任が大きく問われることになります。

36協定の形式を整えることはもちろん大切なことですが、マンパワーと仕事量の見合いを考えて、現場をマネジメントしていくことがマネジャーには求められるのです。

残業を減らせば仕事が終わらない、ということなら、やるべき仕事とかける時間の見極めができていないか、そもそもの要員計画のミスが考えられるでしょう。

勝手な残業も上司の責任?

作業が遅々として進まず、パソコンを前に頭を抱え込む女性社員。

では社員が「勝手に」している残業、これは上司の責任問題に発展するのでしょうか。

残業の承認制を採用している企業もあると思いますが、たとえば部下がこっそりと残業しているのを上司が知りながら放置していた場合。上司にしてみれば、「命令によらない残業は禁止しているのだから、それは本人の自己責任だ」との言い分があるかもしれません。

 

けれどこのケースでは、単なる禁止だけでは足りず、勝手な残業をしないよう指揮監督の必要性が生じます。残業の必要性、会社(上司)が残業を認める意思があったと推定され、黙示の残業命令となります。

 

冒頭で、上司の指示に従わずに残業していた社員への会社の対応義務が問われた判例に触れましたが、本件では「(社員が上司の指示に従わずに残業していたことは)客観的にみると正常なものではなく、身勝手な行為であるとはいえ、社員への安全配慮義務を会社が尽くすには、出勤禁止または退社命令を選択肢の一つとして考えなければならなかった」と判断されています。

つまり、言うことを聞かない社員に対しては「出勤するな」くらいの強い指示を行わなければ、会社(上司)の対応義務は免れないということです。

 

残業の削減には、その職場、職種ごとに固有の課題があるはずです。「できる人に仕事が偏っていないか」「優先順位をたてず無計画に仕事していないか」「チームで仕事が共有できているか」など、社員それぞれの残業の実態がどうなっているのかをまず把握すること。

そのうえで対応策を一つひとつ考えていきたいですね。

勝手な残業を放置しないこと

スケッチブックをカンペのように笑顔で指し示す女性社員。

労働時間とは、「社員が会社の指揮下に置かれる時間」であり、会社から指示命令を受けて、会社の業務を行っている時間のことです。ですから残業もそもそも会社の命令によって行うもの。「社員が勝手に残業している」状態は、理屈に合わないことになります。

 

「社員の自主性にまかせており、社員が主体的に行動していることの表れだ」という意見があるかもしれませんが、社員が「勝手に」残業することと、社員が自ら行動することはまったくの別物です。

残業がどうしても必要であること、その理由、かかる時間などを社員から上司に相談し、双方の円滑なコミュニケーションによって、その打開策を見つけていくこと。このようなプロセスが本来の「社員が自ら動く」組織のあり方だと思います。

ですから残業は許可をとって行わせることを目指すべきであり、無許可の残業をなくすことが大切です。

 

会社が残業削減に曖昧な姿勢をとっていると、マネジャーも「過度な責任を押し付けられている」とやる気を失ってしまうかもしれません。優秀なマネジャーや社員が安心して能力を発揮できる環境づくりは会社にとって必須の経営課題です。

 

「残業削減」の張り紙をする、帰社を促すアナウンスや音楽を流す、消灯や施錠など、アイデアを出し合えば、「勝手な残業」をなくすためのさまざまな手立てが見つかると思います。

実際にこれらのアクションを起こせば、きっと生産性の高い職場へシフトしていきますよ!

社労士事務所Extension 代表・社会保険労務士 高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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